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✯ 憶を忘れた鋼 ✯
小鳥の囀りが響く。這い寄るものが、忽然と消えていく感覚が響く。
深い海から足がついたような思いで鮮明な視界が真っ白な何かに塗り変わった。
彗星のような夜を模した誰かが僕の|身体《ボディ》を撫でながら、鯉のようにパクパクと開く口が「助けてあげて、|転送者《トラベラー》」と繰り返す。
直後、誰かはいなくなくなり、鋼鉄の頭に僕を見下ろす映像が入る。
その映像の中で、『使い捨ての駒』『生まれたての子鹿』『創られただけの機械』と文字が付属し、僕は異様に頭の中が鮮明になり、何故か自分が《《創られたもの》》だと自覚する。
そうして、映像は途切れて小鳥の囀りが再度、響いた。
重い足音がして、|身体《ボディ》を起こされる。赤い点滅が瞳に点在し、二体の少し変わった同胞を目にした。
「…おい、これ…本当に|金属片《スクラップ》か?どう考えても、旧型の…」
「もう何百年前の自立式旧型ヒューマノイドだと思ってるんだよ」
「だ、だとしたって、綺麗過ぎるだろ」
「この辺りはほぼ何にもなかったんだから、当たり前だろ」
「…じゃあ、今ここでコイツが動き出したら、どうする?」
その問いかけに二体の同胞の内、真面目そうな同胞がやや時間が経ってから言葉を述べた。
「上に報告する」
「真面目ちゃんかよ!」
耳をつんざくような同胞の|声《ボイス》。僕はたまらなくなって、顔をあげ、二体の同胞の姿をしかと確認した。
やや角ばって艶消し加工のされたチタン合金で覆われた頭部だが、頭部と手足、手首以外が複雑なメカニズムのような配管や光が埋め込まれて筋肉のように見え、瞳である部分には青白い炎のようなものが二つ並んでいた。
「…やっぱり、動いたじゃねぇか」
「上に報告するか…」
「そうだな、そうするかぁ…じゃねぇだろ、どうするんだよ、動いたぞ?!」
「それを考えるのが君だろ」
「お前もやるんだよ!」
喚く同胞の中で、辺りは鬱蒼とした森がない全くの更地になり、ところどころに枯れ木が生えている変わりようだった。不審に思って、内部のデバイスを起動しようとするも何かが弾けた音がするだけだった。
その内、同胞達がこちらを向いて、名前を呼んだ。
「C5-333…そういう|名前《ナンバー》なんだよな?」
僕はそれに頷き、同胞の内の一人が僕の腕を掴んで宙に浮いた。
掴まれた|身体《ボディ》は二体の間に挟まれたまま、今も変わらず浮いた円盤に近づいていった。
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電子音が鳴り続ける円盤の金属床に重みが沈む。
二体の同胞は肩を回して、動けない僕の身体を宙に引きずっていく。同胞はそれぞれ、チャラそうな同胞がアーク、真面目そうな同胞がゴートンと名乗った。
「…Multiverse-Coreへようこそ…いや、おかえり…なのか?」
そう口に出したアークに僕は頷き、ゴートンは身体を黙って僕の|声《ボイス》などの損傷を確認していった。
「こんな綺麗な見た目だってのに、全部が壊れている…|記憶《データ》も保持されていないし、まるで内側だけが干渉されたみたいだ」
「あー……つまり…どーゆーこと?」
「中から破壊されたってことだ、分かるか?」
「馬鹿にすんなよ、ゴートン」
目の前で繰り広げられる会話の中で僕は一つ一つ、ゴートンの金属の指に這わせた身体からゆっくりと隅に置かれていた金属片を吸い、欠けた部分を治していく。
それが全て吸いきった時、僕は文字通りの新品だった。
「これで、大体が終わり…か」
ゴートンがやや怪訝そうに炎を歪ませながら、僕を見る。ゴートンの後ろからはアークやゴートンと似た構造であるものの、年季が入ってところどころ錆び、壊れた部品に新品の金属片をパッチワークのように貼り付けた身体の同胞が歩いてきていた。
その歩いてくる巨体は、僕を見るなりひどく感嘆の声を挙げる。
「おぉ……自立式旧型ヒューマノイドか……?とっくの昔に全部、|金属片《スクラップ》になっちまってるかと……」
そう声を挙げた巨体を指指して、アークが「この爺さんはシュウェルスな。大体1000年くらい起動してるらしいぞ、長生きだよな」と僕に耳打ちした。
シュウェルス、シュウェルス、シュウェルス……どうやっても新調された脳でも思い出すことができない。
僕が頭を抱える中、ゴートンがシュウェルスに語りかけた。
「シュウェルスさん。C5-333というヒューマノイドをご存知ないですか?」
「C5-333?……いや、全く…目の前の此奴か?」
「ええ」
「……知らんな、此奴も俺のことが分からないんだろう。あの彗星が降った時には行方不明になった同胞が多くてな……今でもあれは何だったのか、検討もつかんよ」
「そう、ですか…」
「彗星は綺麗なもんでな、ゼル辺りが知ってりゃいいが……」
シュウェルスの言葉にアークが小さく、「あのオカマか……俺、アイツ苦手なんだよ…」と呟くも、ゴートンは知らぬと言うようにシュウェルスと会話を続けている。
その騒々しい機械音声の中で、僕はいやに重圧な雰囲気の足音を拾った様な気がした。
**あとがき**
▶各キャラクターの主人公の呼び方
▪×××× ⇨ |転送者《トラベラー》
▪アーク ⇨ レイニー
▪ゴートン ⇨ レイニー
▪マルヴィン ⇨ 猟犬、野犬、忠犬、灰被り…etc
▪シュウェルス ⇨ レイチェル
▪スタイン ⇨ 戦友
▪ゼル ⇨ ハニー
▶各キャラクターの性格(一部除外)
▪アーク ⇨ 人間味あふれる直感型のムードメーカー
▪ゴートン ⇨ 冷静沈着かつ親しみやすいリアリスト
▪マルヴィン ⇨ 負けず嫌いな努力家
▪シュウェルス ⇨ 昔気質な好々爺
▪スタイン ⇨ 飄々としたカリスマ__(独特な奇人)__
▪ゼル ⇨ 受容力あふれる美意識の探究者__(おネエ系)__