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君 が 恋 だ と 気 づ く ま で # 3
彼女は、ずっと泣いていた。
時間なんて忘れてしまうほど泣いていた。
両親を失った悲しみ、孤独、これからの不安。きっと、僕が感じたことのない‘絶望’に襲われているのだろうから、仕方のないことだ。
一方僕は、不思議と彼女が泣き止むその時までずっと頭を下げていた。この時の記憶はないと言っても過言ではない。何を考えていたかと聞かれれば、何も考えていなかったと答えるだろう。
彼女は、淡い色のハンカチで顔を拭うと、真っ赤な目で僕の方をじっと見つめてきた。
綺麗だ、と場違いなことを思う僕は、やはり正常ではないのかもしれない。
数十秒後、彼女が、やっと口を開いた。かと思えば、僕が思っていたよりも棘のある言葉を僕に向かって吐いた。
「……犯罪者の子供だって、いじめられても知らないから」
僕は、何も返せなかった。何も、考えることができなかった。今までできる限り人と関わることを避けていた僕にツケが回ってきたんだろう。
彼女は、僕の心情を察したかのように再度口を開く。
「…あなたに罪はないよ、これっぽっちもない。でもね、私………」
言葉を詰まらせながら、彼女は僕の目をまっすぐに見た。
今にも泣きそうな目で、僕に訴えかける。
「…お母さんとお父さんが、世界で一番大好きだった!誰よりも、誰よりも大好きだったよ…。そんなお母さんとお父さんを殺したあなたの両親には!……恨んでも恨んでも恨みきれないっ……。どんなに時間が経っても、私のこの気持ちは消えない。……筋が通ってないだろうって、お母さんやお父さんに怒られるかもしれない。でも、私は、あなたが、許せないよ、。あなたの顔を見るたびに、あぁ、あなたの両親が私の大切な、大切なお母さんとお父さんを殺したんだって思うから…。」
「………」
「……だから、私の前で、あなたが生きる価値なんて、ないよ」
「…………うん」
「……もう二度と、あなたと話すことはないだろうけど。……さよなら」
彼女は、立ち上がった。そして、振り返って両親を一目見て顔を曇らせてから、病室を出ていった。僕の顔など、少しも見ずに。
彼女がいなくなってからも、僕はずっと病室の床に座ったままだった。
言葉にできないような想いで、いっぱいになる。
…生きる価値なんてない、か。
僕は、生まれてはじめて誰かに恨まれてしまった。
仕方のないことだと思う。恨んでもいいはずの僕の両親よりも、僕の方が身近といえば身近だ。それよりも、両親を殺した犯罪者の子供が自分のクラスメイトなんて、恨む以外他ない。
「…あのー、」
後ろから声をかけられたので振り向くと、小太りの男の医者が立っていた。
「…はい」
「先程までここにいらっしゃった女性、どこに行かれたかご存知ですか?」
彼女なら、さっきここを出ていったはずだ。僕は、医者に向かって正直に答える。
「……ついさっきまでここにいましたけど、先程出ていきました…。どこに向かったのかは、わかりません」
そうですか、困ったなぁ、とぼやきながら、医者は走ってどこかに行ってしまった。
今日はここまで❕
読んでくれてありがとうございました🙇🏻♀️