公開中
遺言書
人は思い描く人になれない。
それは少女の持論であり、今正しく痛感していることであった。
少女は作家だ。作家、と言ってもインターネット上にぽいと2000文字程度を投げる、何処にでもいるようなネット小説家だ。
たまに頑張って10000文字に膨らませたりもするが、大抵収集がつかなくなって終わる。
何処にでもいるような作家だ。
はて、少女は書くのと同じくらい、もしくはそれ以上に読むのが好きだった。
恋愛小説、学園小説、ミステリー、ホラー、ノンフィクションに短編集。
本のジャンルなんて上げ始めたらキリがない全てを、少女は楽しんで読んでいた。
少女は今まで、合わない話というものに出会ったことがなかった。
文章そのものが拙いお話にはブラウザバックをしたりもしたが、ちゃんとお話ができているもので、合わないジャンルが一切なかった。
それが『特別合うジャンルがない』ということとイコールだったのを知るのは、世間一般で『つまらない』と評された物語を100読み終わったときであった。
どれであってもそれ相応に楽しめたし、作者の意図はだいたい汲み取れたと思う。
だがそれは、少女がその本に対して浅い楽しみ方をしているということなのだろうか。
私がリビングに置いておいた本を勝手に読んだ母が『本当に面白くなかった』と評したあたり、もしかしたら正しいのかもしれない。
2000文字の小説と、★1評価の小説を楽しめた私。
語りきれない物語、語りすぎた物語。
世間に殺されるというのか、知見が深まるというのか。
だがその『私』を私が望んでいないあたり、この浅い思考はどうも私には向かないようだ。
人は思い描く人になれない。
幾ら考えても、何故あの物語が『つまらない』に該当するのか、少女にはわからなかった。