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箱入り姫と6人の騎士 ②
赤都 乃愛羽
第2話:沈黙の聖夜(イブ)〜
12月の冷たい風が、病室の窓をガタガタと震わせていた。
かつて「国宝級」とまで称えられたちぐの美貌は、今や透き通るような白磁の肌に、浮き出た青い血管が痛々しい。
「……はぁ、……っ、……な、くん……」
酸素マスク越しに、ちぐが弱々しく助けを求める。
「ここにいるよ、ちぐ。大丈夫、怖くないからね」
ななもり。は彼女の冷え切った指先を、自分の両手で包み込むように温めた。その隣で、莉犬はこらえきれず、ちぐの布団に顔を伏せて肩を震わせている。
「……ねえ、なーくん。僕、決めたよ」
病室の隅で、ずっと影のように立っていたるぅとが、静かに口を開いた。その瞳には、絶望ではなく、どこか狂気すら孕んだ「光」が宿っている。
「るぅと……? 何を決めたって……」
ななもり。が振り返る。るぅとは、ポケットから一枚の書類を取り出した。そこには『ドナー同意書』の文字が並んでいる。
「僕の心臓、ちぐちゃんにあげます。検査の結果、僕の心臓は彼女に完璧に適合する。僕なら、彼女を救えるんです」
「……っ、ふざけんなよ!!」
リビングから様子を見に来ていたころんが、るぅとの胸ぐらを掴み上げた。「お前が死んでどうすんだよ! 6人で、ちぐを守るって約束しただろ!?」
「守る方法が変わるだけですよ」
るぅとは、ころんの手を冷ややかに振り払った。その表情は、聖者のようでもあり、悪魔のようでもあった。
「僕が彼女の中で生き続ける。彼女が恋を知り、誰かを愛し、一生を終えるその瞬間まで、僕の鼓動(リズム)が彼女を支える……。これ以上の『独占』、他にありますか?」
その言葉に、全員が息を呑んだ。それは自己犠牲という名の、あまりにも重すぎる執着(しゅうちゃく)。
「るぅと……お前、本気か?」
さとみが低い声で問う。るぅとは、ただ優しく、眠るちぐを見つめて微笑んだ。
「当たり前じゃないですか。僕は、彼女のためなら何だって捨てられる。……僕の心臓(いのち)を、彼女に捧げさせてください」
恋愛音痴なちぐは、まだ知らない。
自分の命を守るために、一人の騎士がその命を賭した「究極の愛」を選んだことを。