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吾嗄
木目の渦に沈み、外灯を眺める夜にだけ、私は意味もなく|泪《め》を閉じる癖がある。
それは、何度も夢に踊らされ、終わりのない舞踏を舞うためだ。
泪を閉じる度に、夜は深くより鮮明になる。
鮮明になった夜は高層雲の着物を着て、私を誘惑する。
床に就いたまま、天井を見つめると、天井は私の視線に照れて波打った。
天井は照れ隠しに波打ったつもりだろう。
残念ながら、私は母体のなかで蠢く胎児のように見えている。
天井は知らずに波打つものだから、私は呆れて視線を外した。
気がつけば死に化粧の落ちた朝が私の躰に絡みついていた。
幾度も抜け出そうとしたが、結局大きな口に吞み込まれた。
朝の胃袋は普段となんら変わりのない私の部屋だったが、何故か私の部屋から、明らかな違和感を感じた。危機感は私の泪を出し抜いて、のうのうと|空《くう》を泳いでいる。
私の泪が逃げるように時計を向いた。
時計は七時三十二分を指し示した。
いつもならば、侍女が朝食を運びに来ているはず。
しかし、障子は締め切ったままになっている。
私が障子を締め切った、昨日のままに。
朝の胃袋の中は、私を拒絶するように静まり返っていた。
胃袋の中は《《誰もいない》》。この空間に在るのは私だけ。
それを冷やかすように、雨音がケタケタと哂った。
何もかも静かに狂い始めた。
わかっていた。私も。部屋も。全て。
ナイフに切り捨てられた鉛筆のカスの如く。
使命感もなく、《《ただ見捨てられた》》という事実だけが、私の心臓を這っている。
泡のように弾け散ることだけが、私の使命だというように。
夢と現実の境界線が混ざった世界で今日も一日を迎える。