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日当たりの良すぎる部屋で
そんなに、大した事ではなかった筈なのに。
七時、アラームの音で目覚めた。
ベッドから起き上がってカーテンを開けて軽く窓も開ける。
外には幼稚園くらいの子が走って歩いている。
朝早いのにすごいな…。
私だったら絶対に起き得られない。
その子がこちらに気づいたのか、手を振ってくれた。
私も軽く振り返して窓を閉めた。
窓を閉めた途端、外の世界から一気に遮断されたような気がする。
私も学校の準備をしよう。
やる気が全く出ないけれど。
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朝ごはんを食べに下に降りる。
そこで流れていたテレビになにかのアニメキャラが映る。
どうやら昔放送していたアニメのキャラクターらしい。
そんなのいたっけな。
いいな、こんなふうに私も可愛ければきっと嫌なことはなかっただろうに。
「遥、早く支度しなさい」
「はーい…」
行きたくないなぁ…。
そんなことを思ってしまうと涙が出てきてしまうから、必死で堪える。
顔を洗いに行こう、そうしたらきっと涙も引っ込む。
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顔を洗っていると、パジャマの裾に水がかかってしまった。
すぐ乾くだろうし…
「まぁいっか。」
…ここ最近まぁいいかとどれだけ言っただろう。
適当になってしまったな、私も。
『もう大倉さんには期待をしてないから。』
この間担任から言われた言葉が頭を過ぎる。
私だって、最初から自分に期待してないし、
期待して欲しいだなんて思ってもいない。
でも、わざわざ言わなくたっていいじゃん、と思ってしまった。
確か、その時私は咄嗟にふざけるな!と言いそうになったんだっけな。
でも必死に飲み込んで、
『はは…すみません…』
みたいな愛想笑いが出たんだっけ。
これもまたわかりやすい嘘。
自分の中の人生の幸福度が次第に下がっていっているような気がして、
なんかやるせ無い気持ちになる。
その後友達…クラスメイトに呼び出されたのはなぜだったかを聞かれたけど、
テストが意外とよかったんだよねと、正反対の嘘を述べてその場を逃げたんだっけな。
なんで、こうも本心を隠してしまうのだろう。
笑われたくないのか?
もう、今この状態で学校に行ってしまったらぶちまけてしまいそうで怖い。
誰にも会いたくない。
『誰にも会いたくない』?本心なのかな、これが。
何もかも曖昧なまま朝の時間を消費していく。
お母さんも、私の様子に気づいているなら声をかけてくれてもいいのに。「大丈夫」って。
こんなにも、私は苦しいのに。
学校まで、後30分しかない。
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さっきのぐちゃぐちゃな思考の所為で支度をする手が進まない。
「もういっそ何か理由をつけて休んでもいいかな」
ぼそっと呟いてみた。辛いのをわかって欲しくて。
「休むの?」
お母さんの無言の圧力が、私の思考を断ち切ってしまった。
わかってるよ、行かないといけないのは。
わかってるから、そんなに怒らないでよ…。
こっちまで辛くなっちゃう。
何かの本で見た、「幸せでもそうではなくても、朝が来るのに違いはない。それでも前に進むのが人間だ。」この言葉。
学校に行くのも家にいるのもずっと気を張っていないといけない私に、どうしろって言うんだろう。
最初から気にしなければよかったのかな。
本当は進んで、褒められて、やりたいことをやって生きていきたいのかな。
そんな事すらできないなんて、いつからこうなったんだろう。
もし、生きている分給料がでるなら、それはいつまでなんだろう。
誰が払ってくれるんだろう。
でも、そうだったら私もずっと頑張れるのに。
出発まで、後10分。
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玄関に立って靴を履く。
お母さんがリビングから出てきて、声をかけてくれる。
「遥、顔色悪いよ?」
「うん…大丈夫だよ」
嘘をつく。どうせ休めないし。
「昨日の事、悩んでるの?」
なぜわかるんだろう。
「ううん、悩んで無いよ」
「勉強しなかったの、私だしね。」
「遥、もっと相談していいのよ。」
お母さんは詰め寄るように言う。
「誰も笑ったりしないから、隠さないで話してみなさい。ね?」
話していいのだろうか。
でも、言わないと伝わらない。
この苦しさからは一生逃れなくなる。
それは嫌だ。
ここまでしてくれたのだから、一度話してみよう。
最初から、こうしてればよかったのか。
『お母さん、ありがとう。』
話終わったらそう言おう。
きっと泣いてしまうけど、子供みたいに大泣きしてしまうけど。
感謝だけは忘れてはいけない。
私は決心してお母さんに本当のことを話した。
元気ですか?私は元気です。
お母さんに話を聞いてもらって、とても気持ちがスッキリしました。
あれだけ嫌いだった朝も、学校も、ちゃんといけました。
また違う形で学校に通ってます。
あの時、話してよかった。
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ハロ/ハワユ ナノウ様