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明け空のキリア
流血、殺人、微グロ(極力抑えたつもりではある)、死ネタ有
詳しいことはネタバレだから言えないが多分地雷の人が多い描写有
地雷が多い方は読むことをおすすめしませんが、
頑張って書いたので、地雷が少ない人は読んで欲しい‼
この物語は、西暦2X37年4月24日に起きたアステラ星人地球侵略計画事件の、アステラ星人唯一の犠牲者「キリア・レーズェ」、実験体として捕らえられ彼女とともに最後の1日を過ごした「日枯翔」の2人の手帳や遺体の脳解析などによって書かれた物語である。
アステラ星人地球侵略計画事件の犠牲者約120億人に、追悼の意をここに表す。
序
キリア・レーズェは、アステラ星人地球侵略計画のウイルス研究班長の娘として、地球の上で産声を上げた。
彼女にとって地球とは故郷、そして敵陣であった。
そんな星の上で、彼女は14年の生涯を過ごした。
彼女の父――すなわちウイルス研究班長・ミッケラ・レーズェは、研究班を率いる者として、人間を滅亡させるためのウイルス研究に大きく貢献していたそうだ。
キリアの暮らす家兼研究所は、ウイルスを投与され死にゆく実験体の家でもあった。
そんな彼女がアステラ星人地球侵略計画に批判的な考えを持った、彼女の死の2日前から、この物語は始まる。
1 4月22日 午後5時頃
私は、14年生きて初めて、父のやってることを嫌だと感じた。
そのことを父に話しに行こうとしたのだけれど、遅かったみたいだ。
研究所から、父のこう話す声がした。
「明後日4月24日午前0時頃、キラーウイルス|β《ベータ》を地球各地に投下する。それが1日後にはすべての地球人を殺してくれるだろう。ウイルスが消失するまで、我々はこの研究所に籠る。そして、遅くとも1週間後には、この資源の星は我らがアステラのものとなるだろう」
そして父は、移住者がどうたらと仲間に話した。
まさか、と思い、外に出た。
数日前から用意されていたそれは、そう思って見ると前衛的なミサイルだった。
私は絶望した。
そもそも私がなぜこの計画を嫌ったのか。
聞いて、そして見てしまったからである。
私は、私たちアステラ星人とよく似た地球人のことは知っていた。たまにこの星のニワトリという生き物の卵とか、爆発するシュリューダンを投げに来る、野蛮な生き物だ。
けれど……14年暮らした星の言葉だ。解ってしまった。
「俺たちの娘を返せ!」
「もう恐怖に怯えて暮らしたくないの!平和な地球を返して!」
その時、私は分かった。本当の意味で。
彼らは生きている。幸せな家がある。友達がある。だからそれを脅かす私たちを攻撃するんだと。
そして、私はそのタイミングで、偶然にも、実験体として捕らえられた女性の死を、目の当たりにした。
苦しみもがき、口から真っ赤なものを吐きながら、だんだん動かなくなっていく、その様を。
後から知ったのだが、それは私たちで言う血だったらしい。
だから、その計画が私にはあまりにも残酷に見えた。
私は、ここから逃げて父に反抗することにした。
だってもう計画を止めることなどできない。よほどの緊急事態じゃなければ。
なら、緊急事態を起こすのだ。
もし娘が外に出て帰らなかったら、愛する娘がウイルスに巻き込まれないように、父はウイルスの投下を先回しにするだろう。
けれど……。
ただ1人、よく分からない地球人の道を歩くのは怖いし寂しい。
誰か、一緒に逃げて。
そのターゲットは案外すぐ決められた。
私のやろうとしてることはアステラ星人にとって不都合だ。それに、外を歩いている地球人を捕まえるのもあまりにリスキー。
となると……。
私の目線は、自然と、実験体棟に向いていた。
決行は、今日の夜11時半。研究所のみんなが、眠りについた後だ。
2 4月22日 午後11時半頃
電気が消え、すべての生き物が消えたような静かさになった。
そろそろ、父が部屋へ来る。
準備中のかばんを隠し、布団に入って父を待った。
部屋のノブがぎぃと鳴った。
「パパ。お疲れ様」
「キリア、まだ起きていたのか」
「寝れなかっただけだよ」
「何か心配事でもあるのかい?そうだキリア、今日な、パパの研究が成功したんだ。もうじき地球が手に入るよ」
「そうなんだ、すごいね」
声は、震えてないだろうか。
だって私、今、全アステラを敵に回してるんだ。もしバレたらただじゃ済まない。
「がんばってね。じゃあ、おやすみ」
「おやすみ……」
父が(多分最後の)おやすみのキスをしてくれた。嬉しかったし、最後かと思うと寂しかった。
私は父が大好きだ。計画のことを知っても、それを嫌と思っても。だって、それで父との思い出が、人格が変わるわけではない。もう1度言いたい。私は計画が嫌だが、父は大好きだ。
父が部屋を出て10分ほど待った後に、そっと部屋を出た。
暗いが、もともとアステラが夜目が効いているのと、10分でよく慣らしたのとでよく見えていた。
静かだ。
それに馴染むよう、私も静かに歩いた。
実験体であれば誰でも良かった。適当に、手前の檻のドアを開けた。
そこにいたのは、少年だった。同い年か年下に見えた。
少年は私を見て慌てた。
何かおかしいと思った。
……あ、目の色だ。
この地球人の黒いまっすぐな髪、ベージュ色の肌であれば、目というのは一般的に黒か、稀に茶色、といった色が多いのだが……。
この少年の場合、それはイチゴという果実のように鮮やかな赤だった。
私は彼らの言葉をしゃべることができなかったので、少年に届く程度の微弱な波で|暗号波《テレパシー》を送った。これでなら、言葉の違う者とも会話をすることができた。
<聞こえる?あなた、そこの少年>
少年は、おそらく聞こえたのだろう、固まってこちらを向いた。
私は手を差し出し、暗号波を送った。
<一緒に逃げよう>
そう言うと、少年は目を見開いた。
そして、私を見つめ、小声で言った。
「あなたは……アステラ星人……ですよね?」
<うん>
「なら、なんで……」
<明後日、世界中に殺人ウイルスがばら撒かれる。それを止めるため>
少年は絶句していた。
けれど、最後にはそっと私の手を取ってくれた。
3 4月23日 午前5時頃
<だいぶ離れたね……>
6時間、ほぼ休むことなく歩き続けていた。
「……休憩、させて……っ」
少年はだいぶ息が上がっていた。
<休もうか、そろそろ>
近くにあった、切り倒された木に2人で座り込んだ。
<そういえば、あなた、名前は?私、キリア>
「僕は……|翔《しょう》」
そう言う少年――翔の瞳が、昇りかけた太陽の光を透かして赤く煌めく。
そういえば……と、聞かなければいけないことを思い出した。
<翔……あなたは実験台だったんでしょ?聞いておくけど、何の病気を投与されてたの?>
地球人を殺すために作られたウイルスは、どうやらアステラにも感染するものが多いらしいのだ。
「……言いたくない」
翔はそう言った。
余計に詮索はしないが、推測はさせてもらった。
翔の服の袖は余計に長い。右袖はまくってあるが、左はそのまま垂らされたままだ。
私は、恐らくその左腕に病気の何かがあるんだな、と思った。
記憶の限りでは、腕に症状の出るウイルスはあれとあれで……アステラには感染しないはずだ。
まぁ、うつらないならいいか。
そう思って、なんとか逃げ出せたことの安堵を、今更感じていた。
4 4月23日 午後0時頃
森のそばを沿うように歩き続け、太陽は真上から暖かく私たちを照らした。
アステラ星人は、お腹が空きにくい。だから、食事のことは昨晩の準備から1度も考えていなかった。
だから、翔のことを気遣わなかった。忘れていた。
翔は食事のことについてひとことも言わなかった。病気の関係で食欲がないのか、それとも走るのに夢中で、私と同様に忘れていたのか。
けれどもさすがにそろそろお腹が空いてきたので、翔に<食事にしよう>と送り、家から持ってきたリンゴを見せた。
「……食べない。食べたくない」
そう、お腹空いたら言ってね、と送り、私はリンゴをかじった。
「ごめん、ちょっと森入ってくる」
そう言い残し、はいもいいえも答えさせぬまま、翔は森へと入っていった。
数分経ち、私がリンゴを食べ終わるのとほぼ同時に、翔が森から出てきた。
「お待たせ……」
翔のその数分の変化を、私は見逃さなかった。
私は素早く翔の――小さな赤いシミのできた左袖を掴んだ。
<腕……血、出てるよね>
私はまっすぐ、シミよりも赤く鮮やかなその目を見つめた。
けれども翔は、すぐに下に目をやった。
「離して」
冷たい声が、その口から吐かれた。
<だいじょうぶ。治療キットも持ってきてるから――>
「だから、離してって言ってんじゃん‼」
それを掴む右手が、大きく外側に払われる。
苛立ち。
怒りの赤が、今度はまっすぐこちらを見ている。
けれどそれもすぐに終わり、目を逸らした翔はもう私を見なかった。
1歩、1歩、ボロボロに履き潰された静かな靴の音が、遠ざかる。
少しずつ背中が森に溶けていった。
追えなかった。
足が動かないのに、息が上がった。
5ー1 4月23日 午後4時頃
キリアと名乗る宇宙人と別れてからずっと、歩いていた。
お腹空いた。
“あれ”じゃ足りなかった。
頭が回らない。
歩き続けて、足がもう棒みたいで。
1時間ほど前に降り始めた雨が止んで、森を潤し終わった。
ずぶ濡れになった服を脱いだ。
あ。そうだった。
無惨な姿に成れ果てた左手を見て、服を絞るのが困難だと今更気づいた。
そんな手を見てるとやはり食欲は増してしまった。
そっと、噛み跡だらけで肉が不自然に削られた手を口元にやった……その時。
がさがさ、と、草を踏み分ける音がした。
女性だった。
その女性は僕を見るなり、安心したように、僕に声をかけようとした。
けれど僕は――本能に操られて、近くにあった大きな木の欠片を握った。
僕は、病気だ。
5-2 同刻
私は立ち尽くすしかなかった。
そこにある光景は、あの世界がにじみ出たように赤く染まっていた。
生気を失い眠る女性と、こちらに背を向けて座り込んだ翔。
<翔……?>
無意識に発した暗号波に反応するように、翔は私の方を振り返った。
口元を、手を、身体中を赤く染めていた。
あの女性が吐いた血が、あの袖のシミが、その色と同じだった。
そして――目の赤は血の色だった。
一瞬、何が起きていたのか分からなかった。
けどちょっと考えればわかる話だった。
私は彼の病気を『腕に症状の出る病気』だと思っていた。けど、腕に異常を来したのは、その病気で現る“食欲”によるものだった。
翔に投与されていたのはきっと、イーターウイルス|γ《ガンマ》―― `喰人病`だ。
「違……っ」
翔は何かにおびえたようにこちらを見た。確実に混乱している。
焦らないで。一旦、深呼吸して。落ち着こう。
言葉が、出ない。
何かが暗号波を送るのを阻止する。
「やだ……なんで……っ‼」
抑えてたのに。ちゃんと抑えられてたのに。
徐々に翔の息が荒くなる。
ゆっくり息吸って。
説得力のない言葉ばかりが頭をかすめては、やはり暗号波にもならない。
「……もう、やだよ」
翔がぽつりと涙を零すように言った。
手を伸ばすと、触れないように自分の手を引いた。
「触れないで……今の僕なら、キリアのことも喰べかねない」
目元は見えなかった。
「ごめんね……」
僕は……、
その後、翔の口からは言葉が聞こえなかった。
――我に返ると、そこに翔はいなかった。
女性の欠損したまだ生温い身体と私だけが、そこにいた。
6 4月23日 午後11時半頃
目を覚ますと、もう夜だった。
時計を確認すると、11時半くらいだった。
眠っていたようだ。
暗い。
ここはどこだっけ。
……あぁ、翔を見失ってから1時間弱歩いたんだ。
私はあの女性の身体を草むらに隠して、翔を探しに歩いてた。
けれど……なんで寝落ちしてんの。
立ち上がった。
ただ、歩いた。
“あれ”のことなんて、すっかり忘れていた――。
どん、と大きな音がした。
空に花火が上がったみたいな、爆発音。
嘘――。
目を見開いた。
家の辺りから放物線を描いて、ミサイルが何発も上がった。第2軍、3軍……と、続々と上がるミサイルの明るい炎の線を、ただ見てるしかなかった。
父は、私を捨てた。
アステラのために娘を捨てた。
あぁ。
私のやってたこと、無駄だったんだな。
全部、無駄だった。
「何やってたんだろ……」
私の願いっていうのは、所詮、子供の正義感だった。
私は、かばんに入れていた酸素マスクを取り出して顔につけた。少なくとも半日はもつらしい。
もしかしたら、の『架空の事態』のために用意したのに、現実になってしまった。
1キロくらい先に、それの1つが着弾した。
ぬるくてちょっぴり風の強い日程度の、優しすぎる爆風が届いた。
地球人が生きれるのは、長くてもあと1週間。
7 4月24日 午前4時頃
この4時間で、私の精神はかなり削られた。
この辺りは殺風景で、なにもない平地が延々と続く。
暗い空が東に行くにつれ、青緑、エメラルド、黄色、そして白へと変わっている。
悪夢の夜が、もうじき明ける。
……その平坦な世界の向こうに、何か見えた。
かたまりが、歩いて近づくにつれ、生き物になった。
足を止めた。
“それ”――翔の身体まで、あと10歩走れば着くところで。
「翔……?」
アステラの言葉が出てしまった。
あまりにもそれは突然で、残酷で。
私に背を向けて地に横たわり、|呼吸《いき》を荒くしたそのいのちを前に、私は座り込んだ。
ウイルスに侵されたに違いなかった。
<……翔>
顔を覗き込んだ。
虚ろで感情も生気もない、あの血がついたままの顔。どこか暗く見えるのは、血が赤黒く変色していたから、だけではないだろう。
「キリア……っ」
翔がかすれた声を出した。
なんでだろう。
居ても立っても居られなくて、かばんからハンカチと飲み水をすこし取り出した。
飲み水に少し濡らしたハンカチで顔の血を拭いた。
<声、出さなくていいから>
翔の目から涙が零れ落ちた。
なんで。
翔が、それでも呟いた。
「なんで、こんな僕に……優しく、してくれるの……」
たどたどしい地球の言葉が続く。
私は止めなかった。救う術がないからだ。
「僕は、人殺し……人喰いに、なっちゃったのに。なのに、なんで……」
言いながら、突然、むせた。
上体を起こしてあげると、翔は赤黒い血を吐いた。ひゅ、ひゅ、と不自然な呼吸音が、血とともに彼の口から漏れる。
<なんでだろうね。なんで私、一昨日会ったばっかりの異星人に優しくできるんだろう>
さっき拭いたばかりの翔の顔がまた血で濡れてしまった。
その不自然な音も、だんだんと間隔があいていく。
「ありがと……」
その顔は、微かに笑ったように見えた。
……1分もしないうちに、その身体は呼吸をやめた。
翔は死んだ。
いのちの抜け殻をそっと地に横たわらせ、
<ごめんね>
届くはずのない暗号波を翔の脳に送った。
その時はじめて、私はそれに気づいた。
「……なんで」
なんで私、一昨日会ったばかりの異星人に――。
「泣いてるの……?」
ひとつぶ、またひとつぶ、零れてくるそれを袖で拭った。
けれどそれはどこからか、とめどなく出てくる。
いつの間にか私は、大声を上げて泣いていた。
残酷だ。
やっぱりこの計画は、残酷だ。
ひととおり泣ききってから、私は、その顔を見た。
顔が真っ白になっていて、血が対比されて余計赤く見える。
いのちは何処にいったのだろうか。
きっと、地球人で言う天国ってとこなんだろうな。
そして私は、身勝手で無計画な私を恨んだ。小さな微笑みで恨んだ。
私程度じゃ何もできなかった。
家で大人しく籠ってればよかったのかもしれない。
情緒がぐちゃぐちゃだ。
よくわからない。
あぁ、私は。
私は。
絶望の黒は空から消え去って、明るい緑の明け空が広がる。
代わりに、この辺りは黒に染まっているような、そんな気がする。
私は酸素マスクを外して、ウイルスで満たされた空気を吸った。そして、ゆっくり息を吐いた。
一緒に、笑いが漏れた。
かばんを背中から下ろし、地べたに寝転んで、また空気を吸った。
すごく静かだ。
そよ風が吹いた。
私はもうじき、翔と同じように死ぬ。
けど、なんだか気分がすがすがしい。
空が綺麗だ。
この空を見ながら死ねるなんて、幸せだな。
頭……ぼうっとしてきた。
明け空の下、意識が遠のくのを感じながら、そっと目を閉じた。
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キリアが死亡したのは、その日の午前6時ごろだと言われている。
アステラ星人地球侵略計画事件で、120億近くいた地球人は1000人ほどまで減少した。
私たちアステラ人はこの悲劇を忘れてはいけない。
地球返還100年を記念して、この書を出版する
---
気が付くと、私は真っ白な世界にいた。
延々と白が続いていたが、右と左でやや明るさが違った。
「ここは……?」
『この場所は、天国と地獄の境でございます。右側に進めば天国、左側に進めば地獄がございます』
そして空は続けた。
私は耳を疑った。
『あなたの傍で亡くなっていた方は、地獄にいらっしゃいます』
地獄。
翔と結びついてはいけない言葉が、なぜ。
「な……なんで?翔が何をしたっていうの?」
『あなたも知っているでしょう。彼は人を殺し、食べました』
空は機械のように、淡々と述べた。
『彼は十分罪人ですので――』
「何言ってんの?」
苛立ちを感じているのに、なぜか不思議なほど冷静な声で反論していた。
「翔は病気だったの。限界まで耐えてたの。なのに、それでも罪人?そもそもこれは、」
私たちアステラが作ったウイルス。
翔は、翔たちは、悪くない。
言いたいことを一通り言い終わって、ひと息ついた。
空は、少し黙って、言った。
『わかりました。ですが今、彼は食した方がたの呪いに縛られています。救えるのは、私ではなく、傍にいたあなた1人です』
失敗したら、無罪のあなたも地獄に行く。
頼れる人はいない。
空は、私をひるませるようなことばかり言った。
けど。
「行きます、地獄」
私の思いはブレなかった。
『本当にいいのですね?』
「もちろん……!」
そう言って私は、左側の道に大きく力強く1歩踏み出した。
『――では、いってらっしゃい』
ジャスト7777文字‼なんかいいことあるかも‼
ということでこの長文読切読んでくれたあなたにも幸運を……
あれ、分けれるほどあるかな……?