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#5 バグ報告
『また無視なんだ。いい加減返事してよ。恵まれてるからってそういう態度とっていいと思ってるの?』
人間臭い言動です。恵まれてるのは確かで、幸せです。インターの世話もどきは大変だけれど、それでも喋るのは楽しいです。
いい加減、早くどこかへ行ってほしいものです。
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「あ、着てくれてるんだ」
「当たり前です」
この間のショッピングモールで、わたしは服を合計3着セットで買った。悪いからと、半ば押し付けぎみにエプロンを買った。わたしのジャケットと同じネイビーのシンプルなやつだ。
「さ、食べてください」
「そっか」
当たり前だけど、アンドロイドのネットは食べれないんだっけ。
「そういえば、ずうっとネット呼びだけどいいの?」
「え?何を今更ですか。4年も呼ばれ続けてきたのですから、もう慣れています。予め組み込まれていたのですから、尚更です。インターと呼ばれるのはどうなんですか」
「ずっと井田って呼ばれてたから。なんでだろうね。確か、インターネットが好きだっていうのが知られたから、じゃあインターって」
目の前に出されたナッツサラダに、ネットが作ったドレッシングをかける。フォークで食べる。くるみや落花生と、キャベツや玉ねぎ。
「話変わるけど、本当に遺伝子同じなのかなぁ?料理わたし下手だし、だらしないし」
「知りません」
サラダが入っていたボウルをシンクへ片付けて、スポンジに洗剤をつけて、洗う。
「あ、いいです。私がやっておきます。食物繊維を摂取したあとに…」
「そう?なら先に食べるね」
マッシュルームとベーコン入りのクリームパスタ。ちょっとだけ規制が緩んだような気がして、口元も自然と緩んだ。
「ごちそうさま」
近くにあったティッシュで口元を拭い、そのままゴミ箱に捨てる。
「インター」
「何?」
「何かしらバグが起こっていませんか?アップデートして1週間経ったのですが、なんだかおかしくて」
「え?風邪の後遺症かなぁ。まぁ、ほっとけば治るよ」
「そうだと良いのですが…」
なんとなく良くない予感がする。ま、いまは取り敢えず仕事するか。
「せめてクリームパスタの皿は洗うよ」
「そうですか?割らないでください」
そう言って、わたしは皿に流水を当てた。ひっと冷たい。こんな冷たさ、食べるたび、しかも他人が食べるたびに感じるなんて、とても耐えられない気がした。