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第2話:非合法なアフターケアと、夜の独占欲
王都の一角にある、少し立派な二階建ての石造りの家。
魔法の鍵を閉めた瞬間、イゾルデの中の「氷の令嬢」は跡形もなく消え去った。
「うぅ……ソーレ……。私、あの子に一生恨まれるわ……」
イゾルデは着ていた水色の最高級マントを玄関に放り出し、ソーレの白いローブの裾を掴んで離さない。
「『次に喋ったら、実家の商売敵に有利な魔法薬を流す』なんて、あんな冷酷な脅し……私、最低の教育者だわ……」
「よしよし。でも、あいつが言いふらしたらオレたちの|秘密《イチャラブ》が終わるんだぞ? 必要な措置だったろ」
ソーレは苦笑しながら、自分に縋り付く小柄な妻を、慣れた手つきで「お姫様抱っこ」した。
「……きゃっ。ソーレ、急に……」
「歩くのも怠いだろ? ほら、リビングまで運んでやるよ」
ソーレの「身体強化魔法」は、戦うためではなく、今はただ妻を快適に運ぶためだけに使われている。イゾルデはその逞しい胸板に顔を埋め、微かに香る彼の体温を吸い込んだ。
「……ソーレが、そうれ……してくれないと、私、もう今日のご飯作る気力もない……」
「『|そうれ《抱っこ》』、もうしてるだろ(笑)。飯はオレが適当に作るから、お前はソファで溶けてろよ」
リビングのソファに下ろされると、イゾルデはそのままソーレの首に腕を回して引き寄せた。
「……やだ。離したくない。ソーレが、|そうれ《そこ》にいないと、私……死んじゃう」
寝ぼけたような、甘ったるい声。学園の生徒たちが聞けば、腰を抜かして卒倒するような変わりようだった。
「……イゾルデ、お前な」
ソーレのオレンジの瞳に、昼間よりも暗い情熱が灯る。独占欲という名の炎だ。
彼はソファに押し込むようにして、彼女の細い腰を大きな手で囲い込んだ。
「昼間の『口止め』、あいつを脅しただけじゃねーよ。ちゃんと金貨三枚、握らせてきた」
「……え?」
「『これは口止め料じゃねえ。お前が真面目に勉強するための奨学金だ』ってな。あいつ、泣きながら『一生ついていきます』って言ってたぞ。……だから、もう反省会は終わりだ」
ソーレの指が、イゾルデのハーフアップに結んだ髪をそっと解く。
水色の髪がシーツのように広がり、二人の世界を密閉する。
「……あ、あの子……泣いてたの?」
「ああ。だから、もういいだろ。……今は、オレのことだけ見ろよ」
低く、抗いがたい声。ソーレの唇が、彼女の首筋にある「特別な場所」を辿る。
「……っ、ん……ソーレ……」
イゾルデの瞳が、熱を帯びて潤む。氷はもう、一滴も残っていない。
「……子供、できなくても……私は、ソーレがいればいいの。……だから、もっと……」
震える指先で、彼女は夫の白いローブの襟を掴んだ。
「生存確認」という名の、あまりにも濃厚で情熱的な夜が、静かに更けていく。
🔚