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箱入り姫と6人の騎士 ⑤
赤都 乃愛羽
朱(あか)に染まる朝〜
手術室の上の「手術中」という赤いランプが、冷たく、そして残酷に廊下を照らしている。
その赤は、まるでるぅとが流そうとしている血の色のようで、ななもり。は正視できずに顔を伏せた。
「……あいつ、最後まで自分勝手なんだよ」
ころんが、震える声で壁を蹴った。
「仲間割れしたまま……言い返させてもくれないで、一人で勝手にヒーローになってさ。残された俺たちが、どんな顔してちぐの隣にいればいいんだよ……!」
「……これ、見て」
莉犬が、るぅとの控室に残されていた一通の手紙を見つけ、震える指で差し出した。そこには、5人それぞれの名前と、最後に『ちぐちゃんへ』と書かれた封筒が添えられている。
ななもり。が代表して、震える手で中身を開いた。
『みんなへ。
喧嘩したまま行くのは、僕らしいかもしれませんね。
でも、これが僕の精一杯の「わがまま」なんです。
ちぐちゃんの心臓が止まるのを待つなんて、僕にはできなかった。
僕の心臓が彼女の中で動く限り、君たちが彼女を抱きしめる時、僕も一緒に彼女を感じられる。
……ずるいって怒ってください。でも、ちぐちゃんを、僕の分まで狂うほど愛してあげてください。
彼女を泣かせたら、僕が内側から暴れますからね。』
「……バカ野郎」
さとみが、手紙を奪い取るようにして読み、声を殺して泣いた。
「呪いだって言っただろうが……。こんなもん、一生忘れられるわけねーだろ……っ」
ジェルは、ちぐが入っている手術室の扉にそっと手を触れた。
「ちぐ。……お前、起きたらびっくりするだろうな。自分の胸の中で、あいつが全力で生きてるんだから」
数時間が経過し、冬の鋭い朝日が廊下の端から差し込んできた頃。
手術室のランプが、静かに消えた。
重い扉が開くと、疲れ切った表情の医師が出てくる。
「……移植は、無事に終わりました。ちぐさんの心臓は、新しい主(あるじ)を受け入れ、力強く動き始めています」
安堵の溜息とともに、5人は崩れ落ちるように座り込んだ。
ちぐの命は繋がった。
「国宝級」と謳われた彼女の美しさは、これからは「一人の少年の命」という代償を背負って輝き続ける。
「……行こう。ちぐが目を覚ます時、誰もいないのは可哀想だろ」
ななもり。の言葉に、5人は涙を拭い、ゆっくりと立ち上がった。
彼らの絆は、一度は壊れた。けれど、るぅとの「鼓動」を共有することで、より深く、より歪で、逃れられない愛へと形を変えていく。