公開中
第12話:毒と氷、鏡写しの孤独
イーストン魔法学校の正門。親善試合のために他校から招かれた生徒たちが、続々と足を踏み入れていた。
その中でも、ひときわ異彩を放つ一団があった。セント・アルズ魔法学校の精鋭たち。その中心に立つ銀髪の少年――シリル・スノーが、出迎えたアドラ寮の面々を、感情の失せた瞳で見据える。
「……君か。不吉な『ロスト』の生き残りは」
シリルの周囲の空気が、一瞬で凍りついた。彼の魔法は『永久凍土(エターナル・ゼロ)』。アネモネの毒と同じく、周囲から「冷酷」と疎まれてきた力。
「……別に。万死に値するわよ、いきなり失礼ね」
アネモネは159cmの視線から、精一杯の刺を込めて言い返した。だが、シリルは冷笑を浮かべ、彼女の足元に視線を落とす。
「毒を隠すために、偽りの盾の後ろに隠れているのか? 無駄だよ。君のような『異物』は、孤独の中でこそ美しく咲くものだ。……偽りの温もりに浸る今の君は、ただの薄汚れた雑草に過ぎない」
アネモネの指先が、微かに震えた。
自分の内側にある「毒」への嫌悪感。それを最も冷酷な形で指摘された。
「――おい、氷点下野郎。今、なんて言った?」
ドットが、アネモネの肩を抱き寄せるようにして前に出た。彼の手から伝わる熱が、シリルの冷気とぶつかって激しい水蒸気を上げる。
「アネモネが雑草だぁ? 笑わせんな。こいつは、俺の隣で最高にクールに咲いてる世界一の花なんだよ! 自分の孤独を他人に押し付けてんじゃねえぞ、このヒョロガキ!」
「……ドット・バレット。熱血バカの加護が、いつまで続くか試させてもらおう。明日の試合、彼女の『毒』が自分自身を焼き尽くす瞬間を楽しみにしているよ」
シリルは冷気を残して去っていった。
アネモネは、ドットの制服をぎゅっと握りしめる。
「……ドット。私、やっぱり……」
「アネモネ。……あんな奴の言葉、全否定だわな!」
ドットはアネモネの両肩を掴み、真っ直ぐに彼女の目を見た。
「お前は毒じゃない。俺を癒し、俺を熱くさせる、俺にとっての『光』なんだ。明日は見せつけてやろうぜ。お前の茨が、どれだけ温かくて強いかをよ!」
「……っ、……うるさい。脳内ガキのくせに」
アネモネは涙目を隠すように、ドットの胸に顔を埋めた。
159cmの彼女を受け止める、ドットの熱い胸板。
毒と氷、そして炎。
親善試合という名の、信念を懸けた戦いが幕を開ける。
その夜、アネモネは寮の自習室で一人、自身の毒の茨を見つめていた。
シリルに言われた「偽りの温もり」という言葉。それを否定するためには、ドットに守られるだけでなく、ドットを勝利へ導くための「新たな毒」が必要だった。
「……四時間。……いいえ、一分よ」
アネモネは決意を込め、自身の魔力を指先に集中させた。
それは、相手を眠らせるためでも、苦しめるためでもない。
愛する者の限界を突破させるための、究極の「劇薬」。
🔚