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天才ちゃん!3
「先生が、3年1組の担任だ。|小鳥遊《たかなし》|丙《ひのえ》という。小鳥が遊ぶでたかなし、甲乙丙丁の丙でひのえ、だ。国語を担当する。これからよろしく頼む。自己紹介?するか?したいやつは手を挙げろー!」
そういって呼びかける小鳥遊先生。
「はい!」
一人だけ威勢良く手を挙げたやつがいた。
「一人だけか?」
みんな、周りを見渡し、頷く。
「うーむ…じゃあ、一人だけ、自己紹介するってことで!いいよ、自己紹介しろ。」
「えー俺だけですかぁ~。まあいいや。|高麗《こうらい》|譲《ゆずる》です。下の名前は、謙譲語のじょうの譲で、謙虚な子になりますように、という願いが込められていますが、こんなになっている人です。1年間よろしくお願いします。」
淀みなく述べられた自己紹介。笑いを取れること。新鮮だった。
「他にやりたい人はいるか?」
みんな周りを見て首を振る。
「じゃあ、今日はこれで終わりだ。今年は分かっているだろうが、受験だ。勉強を怠らないように。じゃ、解散!」
わちゃわちゃみんな帰りだす。
さあ、勉強でも頑張ろうかな…
「悠ちゃ〜ん。」
「ん?どうした?」
「すごいよ、このクラス。今さらながら足が震えてきた‥」
「何かあった?」
一応教室であったことをを思い出してみるが特に何もなかったような気がする。
「悠ちゃん知らない?まずあの小鳥遊先生は、ちょー評判いい先生。他校から引き抜いてきたんだって。で、さっきの高梨くんは運動もできるし勉強もできる秀才。バスケットボール部の部長をしているんだよ?他にも大会社の御曹司もいたし、研究者の子供さんもいたんだよ!すごい人がめっちゃいるんだ!もちろん悠ちゃんもね!」
「最後のは一体何?」
「まあそれは置いといて、1組って理系のせいか女子少ないじゃん?」
「まあ40人中10人くらいだったかな?」
「そう!で、みんなで仲良くなろーと言うことで、今からカラオケ行かない?」
「私が行っても何もいいことないよ。というか迷惑かけるだけだし行かないほうがいいと思う。」
「大丈夫だって。悠ちゃん歌うまいし。」
「そういう問題じゃなくて、まず私が行くこと自体に…」
「あ~もう、言っちゃうけど、うちは、悠ちゃんを連れてこい、って頼まれているの!」
「え?」
「はいはい行くよ〜」
「ちょっと…歩くから!だいたいしずちゃんは私を引っ張れないでしょ!」
「そりゃあねぇ、悠ちゃん身長も高いし体幹もいいもん。簡単には動かないって。」
「はぁ。」
「あ、金糸雀さん来た!」
「日暮さんありがとう!」
「いえいえ〜」
「じゃ、行こうか。」
「だね」
「早く行こうよ。」
「ねえねえしずちゃん。これってもしかして全員いる?」
「そうだよ?」
これ集めた人すごいなぁ。
「着いたー!」
「いえーい」
「じゃ、うち受付行ってくる。」
「ありがとう日暮さん。」
受付に行ったしずちゃんが帰ってきた。
「5号室だって。悠ちゃん、行こう」
「うん。」
みんなが入ったのを確認して、扉を閉める。
「まず誰行く?」
誰もいない…悪い予感が…
「よし、それじゃあ悠ちゃん行こっか。」
当たっちゃった…
「だからなんでそうなるの?まずはしずちゃんが行こうよ。」
「まあそっか…悠ちゃんが行くとみんな気後れしちゃうし…」
何を言っているのかな?しずちゃんはいったい。
「じゃあ行きまーす。次は悠ちゃんだよ」
「え?だから何で!?」
あぁ~いやだな~嫌だな~と思っていたら、しずちゃんの歌が終わった。
「はい。」
マイクが渡される。
「分かったよ。」
「えーと…これでいっか。」
一番上にあった曲を選んだ。YOASOBIの「アイドル」。聞き覚えがあるから多分歌える。
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無敵の笑顔が荒らすメディア♪
金糸雀さんのその最初を聞いただけで戦慄した。
この人、すごい上手い。
なにもためらわないでこの曲を選んだし、肩に力もかかっていない。
これが金糸雀さんの自然なんだ。
机にあったタンバリンを思わずつかんで、曲に流されてしまった。
金糸雀さんも冷たい人だと思っていて、席が隣で気まずいなぁって思ってたけど、結構明るいし…
決めた!金糸雀さんの友達になる!
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あぁ、やっと歌ってくれた。
今日、クラスの女子全員を集めて、カラオケに来たのは、全部悠ちゃんに自信を持たせるためだ。
悠ちゃんは嫌われていない、ただ、いい意味で近寄りがたいだけなのだ。
それを気付かせる意味も込めて、この場を作った。
|夕川《ゆうがわ》|乃蒼《のあ》ちゃんが、タンバリンでリズムをとっているのを横目に見ながら、うちは成功を確信した。
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歌っていると、一人、タンバリンをもってリズムをとってくれる女の子がいた。
背がちっちゃくてかわいいなぁ。すこし驚いたけど、歌い続ける。
…その後、楽器が増えた。
歌い終わったとき、机にあった楽器は全部消え、みんなそれぞれ片手に何か持っていた。
そして、大きい拍手が来た。
「ライブみたいだったよー」
「金糸雀さんって歌もうまいんだね」
そう言ってくれたのはタンバリンの子。
「ありがとう。」
みんなも歌っていき、また回ってきた。
「何か歌ってほしいもの、ある?」
しずちゃんに聞いてみた。あわよくばこれを聞いた他の人が答えてくれないかな、って思いながら。
運のいいことに、タンバリンの子が答えてくれた。
「私、晩餐歌歌ってほしい!」
「あ、いいね!」
しずちゃんも頷いてる。
「じゃ、それで」
多分歌えると思う。
あぁ~楽しかった〜。
みんな私が歌っていても快い反応だし、2人もいいけど、こんなふうに大人数なのもいいかなって思った。
今年は去年よりもっと楽しくなりそう。自然とそう思えた。