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塩湖
「一杯飲んでいかん?」
つれないあられちゃんを諦め半分で誘ってみる。
「結構です」
ほらね。いっつもフラれる。流石に私でも悲しくなっちゃうよ。
あ、自己紹介が遅れましたね。
私の名は、おかき。商事会社に勤める38歳だ。これでも女ですのよ。
ここ最近どうも肩が痛くて…老いを感じる今日この頃、あられちゃんにフラれました。
あられちゃんは、美人で有能な後輩ちゃんだ。ほんっっっっとにすごい子で、うちの部署の自慢なの。ただちょーっと常人には近寄りがたい完璧オーラを醸し出しちゃってるのが、まあ、欠点なのかなぁ~みたいな。
~翌日~
「一杯飲んでいかん?」
仕事終わりのあられちゃんを諦め半分で誘ってみる。
「…………いいですよ」
左手にはめた腕時計をチラッとみてそう答えた。
「そっかそっか。残念残念。」
そうして私は帰路につこうとした。
「ちょっ…先輩!?」
あられちゃんとは思えない場違いな声が聞こえて振り返った。
「ん?なんじゃらほい……あれもしかして今OKしてくれた?」
「はい…」
「のぉぉぉぉ!ごめんよごめんよ!いつも通り断られたのかと思ったわぁ!なんかもう誘って断られるのがルーティーンみたいになっちゃってたから」
「それはごめんなさい。今日は少しだけ時間があるので、ぜひ」
「おおまかせて!(?)奢ったるわ!」
勢いでつい、言ってしまう。
「えぇそれはなんだか申し訳ないです。割り勘しましょう」
あられちゃんらしい冷静な返答だ。
「……はい。すみません。////」
「ふふっ前々から思っていましたが先輩って面白い方ですね」
美人のあられちゃんが微笑むと、太陽よりも眩しく見える。
「ちょ……あられちゃん。それは反則だよ」
「?何がですか?」
当の本人は自分が美人だということを自覚していないようだ。ふむふむ。
~At居酒屋~
「ビール飲むの?」
「はい!大好きなんです!」
あられちゃんはすっかりお酒が弱いと思いこんでいたのでビールが好きとは驚いたものだ。
「私の祖父も好きだったなぁ」
「おじいさんですか?」
「うん。11年前に死んじゃったけど、不思議な話をする人だった。」
「そうなんですか?興味があります。もう少し、聞かせてもらえませんか?」
「もちろんいいよ」
---
「おかきちゃん、今日はじいちゃんの昔の話をしてあげるよ」
「おじいちゃんのむかし?」
当時5才だった私は、おじいちゃんの話を聞くのが大好きだった。
「そうだねぇワシがおかきちゃんくらい時の話をしようか」
「なんねんまえ?」
「70年前さ。じいちゃんは、森の中に塩湖を見つけたんだ。」
「えんこってなぁに?」
「しょっぱい湖のことさ。」
「ふぅん」
「その塩湖にゃ女の子がいたのさ。かわいい子だったが、白い髪の毛、赤い瞳、真っ白な肌だった。じいちゃんはその子に恋をしてしまったんじゃ。一目惚れだった。」
*
「あのぉ~…」
話しかけると、女の子は振り返り、微笑んだ。
「あ、えと、おれ、そうたろうっていうんだ…君の名前は?」
しかし女の子はクスリと笑うばかりで一言も喋らない。
「…………話せないのか?じゃあ…スマイルって呼ぶ!いい?」
女の子は嬉しそうに頷いた。
「なんか遊ばない?」
すると、女の子は少年おじいちゃんの手をとり、走り出した。
「えっ…ちょっと!前見てる!?塩湖だよ!?」
女の子は"大丈夫"と返事でもするように、強く少年おじいちゃんの手を握った。
「うっそ!!水の上走ってる!?おいスマイル!お前すげえな!」
女の子は振り返り、恥ずかしそうに笑った。
それから少年おじいちゃんは毎日毎日、女の子のいる塩湖へ遊びに行った。
しかし、ある日を境に女の子は姿を消した。
あくる日もあくる日も、一日中待っても女の子が現れることはなかった。
ついには、その塩湖さえもなくなっていた。
*
「っていうことがあったんじゃ」
「ええぇぇ!なにそれぇ!女の子ひどいよ!いきなりいなくなっちゃうなんて」
「でもなぁスマイルは優しい子だった。あの笑顔は今でも忘れられないよ」
おじいちゃんがその思い出を大切にしているのが当時の私でもよくわかった。
「女の子は、いったい何者なんだろう…」
「そうだなぁ。ワシは、女神様って思っとる。」
「女神様?」
「ああ。きっと遊びたかったんじゃよ。そのために塩湖をつくって、姿を現したんじゃないかなぁ~ってじいちゃんは思うよ」
「でも、、なんで塩湖なの?普通の湖でもいいんじゃないかなぁ」
「それはじいちゃんも分からないなぁ……」
---
「っていう話が一番印象的だったなぁ」
「なんだかロマンチックですね。少し憧れてしまいます」
「わかるぅ~!そういう非現実的なの体験してみたかった!」
「ふふっ。まだ諦めちゃいけませんよ。人生まだまだこれからの方が長いですから」
「まあね~でもさぁなんで塩湖だったのか、ってずっと分かんないんだよね」
「女の子の……女神様の気まぐれですかね」
「うーん確かに……」
「あ、すみません。そろそろ帰らないと……」
「そうだったそうだった。聞いてくれてありがとね」
「いえ、とても楽しかったです!」
~At電車~
あられちゃんと別れを告げたあと、いつもより遅い電車に乗った。そのため人も少なく快適だ。
スマホを鞄の中から取り出し、夫へ帰るよスタンプを送信しようとしたその瞬間。電気が走ったような衝撃が全身を巡った。
白い髪の毛、赤い瞳、真っ白な肌……
見たことこそないが、おじいちゃんが言っていた特徴と当てはまる少女が端の方に佇んでいた。
そっと近寄り、
「あのぉ~…」
少女は私の目をしっかり見て微笑んだ。
「スマイル…さんですか?」
そう聞くと、彼女は目を大きく開いた。
「聞きたいことがあるんですが…塩湖にした理由ってなんですか?」
暫くして少女は口を開いた。
「許してね」
ここからは見たい人だけみてください!
【解説】
はい、まず、女の子は何者なのか?
この子は昔、おかきのおじいちゃんが見つけた塩湖で溺れて亡くなった子です。
白い髪の毛なのは、溺れてからだいぶ時間が空いたので、しらがになってしまったから。
赤い瞳なのは、塩湖の水が目の中に入りそうなってしまったから。
真っ白な肌なのは、皮膚がただれたから。
決して女神なわけではありません。
ちなみにこの塩湖の塩分濃度はかなり高い設定です。
次に、なぜ塩湖にしたのか?です。
これは気になりますよね。
女の子は実は事故ではなく、"溺れさせられた"のです。
いわゆるいじめというやつですね。
恐らく、この世に未練があったのでしょう。
実はその塩湖は、女の子が溺れたあと、無くなっているのです。
おじいちゃんが見つけた塩湖は、女の子の力で見せられていた"幻覚"なんです。
水の上を走っていたのは、そう見えていただけで、本当は陸の上を走っていたということ。
女の子は少年おじいちゃんを溺れさせたかったんです。
でも、女の子もまた少年おじいちゃんに恋をしてしまった。
「あれ?殺したかったのに普通に遊んじゃってる…」ってなってある日突然姿を消したということです。
またまた未練があるまま少年おじいちゃんと別れてしまった。
そして最後のシーンです。女の子は、「スマイル」の名を知っていたおかきが少年おじいちゃんの関係者だと勘づいたんです。
少年おじいちゃんの代わりにおかきを殺して、成仏しようと思ったんです。
おかきは知らず知らずのうちに身代わりになっていた。
これが、女の子が「許してね」と言った理由です。
納得していただけたでしょうか????
なんだか夢を壊すような解説で申し訳ないですね…
ちょっと俺語彙力ないんで分からないところがあったら教えてください!
感想とかあればぜひ!