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火の小噺
私は大罪人だ。
罰せられても致し方無いことをした。
私は火を盗んだのだから。
その昔、まだ何もない地上を見て親友が呟いたんだ。
地上に住まう者もいればいいのにな、と。
私は儚い命を作ることができる。
罪深い力だ。
私のほんの気まぐれで、僅かな時間に愉しみを見出し、そして永遠に冥界の深淵に縛られる。
けれどあの時、私は“人”を創った。
それほどまでに地上は鮮やかだったからね。
けれど、善いことばかりでもなかった。
ある時、神と人とで食べるものを分けよう、つまりは人の食べるものを定めよう、ということになった。
どうやって分けようかという時、誰だったか、二つの選択肢を用意して私の親友に選ばせたんだ。
脂身を巻き、炙った骨と、内臓や肉の詰まった皮。
親友は全てを知った上で前者を選んだ。彼も人を少なからず愛しく思っていたからね。
でも何柱かの神が怒ったんだ。人が神よりも良いものを食べるとは許せないと。
それで親友は妥協案として、人は死する時、腐り、肉体が残らないこととしたんだ。
そして同時に、火を隠した。
火を使うことができない人々は、夜の間の闇、寒さ、獣、嘘。様々なものに怯えて暮らしていた。
私は…それに耐えられなかった。
親友に言ったんだが聞き入れて貰えなくてね。
あれは強情なところがあるから。
でも私もそれで諦めることをしなかった。
同じく見かねていたアテナに頼んで、天上の火まで連れて行って貰った。
そして、その火の一欠片をフェンネルに包んで人に与えた。
勿論、すぐに露見したよ。捕えに来たビアーたちには悪いことをしたかな。
彼は私の罰を決めるとともにストゥクスの誓いをした。神にも破ることができないという誓いを。
誓いの内容はこうだ。私を永遠にコーカサスの岩に縛りつけておくこと。
そして私の罰は、此処、コーカサスの岩に永遠に繋がれ、ゼウスが遣わす大鷲に肝臓を啄まれ続けること。
無期限なのは、それほどまでに重い罪というのもあるだろうが、きっと彼は信じることができなかったのだと思う。彼を裏切った私のことをね。
もう会うことはできないだろうけれど、私は彼に伝えたい。
私は2度と、君を裏切らない。信じてくれないかも知れないが、その印に、永遠に此処に縛られているから、と。
随分長いこと喋ってしまったね。
君が此処に来ることは知っていた。
難業を果たす為だろう?
そうか、金の林檎……ヘラのものだね。あれならば世話しているのは私の兄、アトラスの娘たちだから、アトラスは取りに行くことができる。
君の活躍を、此処から願っているよ、アルカイオス……いや、ヘラクレス。
滔々と語り、自分の方を見て慈しむように微笑んだ目の前の神を見て、馬鹿らしいと一蹴したくなった。
自分を罰した友の為に罰を甘受するなど、気が触れているとしか思えない。
気づけば自分はその神を縛りつける鎖に手をかけていた。
「え、いや、駄目だ、ヘラクレス。彼は誓いをしていて…」
「つまり、岩と繋がっていればいい。違うか?」
大きな破壊音が響き、土煙が薄まった後には、砕かれた大岩と、鎖につながった小さな岩のかけらがあった。
「これなら誓いを破っていない。だろ?プロメテウス」
得意げに彼の方を見れば、彼は笑って言った。
「君は本当にゼウスにそっくりだね」
END
眠り姫です!
予告通りプロメテウス視点です
彼は火を盗んだ後、コーカサス山と云う場所に縛り付けられ、肝を鷲に啄まれ続けます
その時間なんと三万年(確か)
本当は無期限でしたが、三万年たったある日、ヘラクレスがその場所を訪れます
ヘラクレスに課された十二の難業を果たすため、プロメテウスに助言を貰いに来たのでした
……と、まあ細かい部分はWikiなどでどうぞ
では、ここまで読んでくれたあなたに、心からの祝福を!