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第11話「これが初恋」
【登場人物】
BTS:韓国の男性アイドルグループ
私:日本生まれ韓国在住の19歳大学生。
(家族構成)両親は中3の頃に離婚し、母とソウルで二人暮らし。
(身長・体重)身長164cm、体重✗kg
(推し)無し
(彼氏)無し
(夢)日本の小学校の先生になりたい。
(好きな色)紫
(趣味)料理、読書、掃除、散歩
(宝物)①両親と撮った最後の家族写真
②中学の頃好きだった男子からもらった腕時計。紫色。
(外見)眼鏡無し。黒髪で、ショートヘア(新垣結衣風)。大抵パーカーとジーン
ズとスニーカー。化粧無し、アクセサリー無し。
(性格)感情をあまり表に出さず、一人でじっくり考えることが多い。真面目 で頑固。滅多に泣かず一人で落ち込むことが多い。
*彼らが使う言葉は、表記は日本語ですが、実際は韓国語を使っています
ドアの向こうに広がっていたのは、とてつもなく広い“豪邸”だった。
私達は一言も交わさず、導かれるように足を踏み入れた。床はぴかぴかの大理石。まるで鏡みたい。
そして、広々としたリビングが現れた。
「信じられない…。砂漠にこんな家があるなんて…」
「外は砂漠のはずなのに、なんで窓があるんだろう…」
皆つぶやきながら、吹き抜けの天井を見上げている。でも私は、そんなことなどどうでもよかった。だって生まれてこの方、こんな素晴らしい家に入るのは初めて!ほんとに、高級住宅の雑誌から抜け出してきたみたい。
こんな家に住めたらどんなに幸せだろう…。母さんと住んでいたアパートを思い出し、そのあまりの違いにおかしくなる。
大きな窓から入ってくる木漏れ日と、吹き抜けの天井のおかげで、部屋はとっても明るい。ごつごつした壁に巨大なテレビ。透明のテーブルの上にきれいな花が生けてあって、灰色のL字型ソファがテーブルを囲んでいる。窓の外には広いウッドテラス。お洒落なシンボルツリーが眩しい。奥にはプールもあるじゃないの!
友達と一緒だったら、きっときゃあきゃあ言って興奮して、とっても楽しいだろうなあ。
でも。
振り返ればそこにいるのは、雲の上のセレブ達。一人でハイになってるのも、寂しいし恥ずかしい。
スーパーアイドルの七人は、「こんなの家じゃなくてただの夏休みの別荘だろ」ぐらいに思ってるのかもしれない。このゴージャスなリビングに驚いてるのも、私だけだし。
まあいいや。一人だっていいでしょ。セレブに遠慮して、そのうえ寂しがってたら、せっかくなのにもったいない。こっちは貧乏人の大学生。お屋敷に心がときめくのはあたりまえのこと。せいぜい楽しむことにいたしやしょう。
彼らはソファに座って、何やら深刻そうに話している。その姿は、もうこの家の主人みたいに、余裕があって、堂に入っている。
私は話し合いに加わる気になれず、じっくりと家の中をみてまわることにした。
1階をたっぷり20分間見学したあと、私はリビングに戻ってきた。2階に続く階段は、リビングにあるからだ。リビングへと続く廊下を渡りながら、私はお風呂の素晴らしさの余韻に浸っていた。
それにしても、ただの風呂が、あんなに広いとは!ちょっと心配していたけど、どうやら男湯と女湯は、きちんと別れているみたいだった。
木と石の浴槽に、温泉が滾々と湧いていた。半露天風呂で、夕空と森に手が届きそうだった。うっとりするほどきれいだった…。
ぼーっとしたままリビングに入っていくと、皆が私を見てため息をつきながら寄ってきた。なぜかどの顔も怒っている。私は、お風呂など頭からふっとんでしまった。
「もう…勝手にどっかに行かれたら困るよ」
その場に硬直していると、ジンが怖い顔で言った。
「消えちゃったかと思った」
「今から探そうと思ってたんだ」
「心配したよ」
口々に迷惑そうに言われる。私は胸を突かれたような気持ちだった。自分がいかにアンモラルだったかに気づいたからだ。
セレブだから…って馬鹿にしていた私。でも彼らはこの不可解な状況を打開する方を優先していて、はしゃぐ暇などなかったんだ。それなのに私ったら、話し合いに参加もせず、ひとりでウキウキしちゃって、その上のほほんと観光するなんて……非常識すぎる。
私は深く後悔しながら、七人に頭を下げた。
「迷惑かけてすみません…」
「これからは、どこかに行くときは、先に言ってね」
「はい」
ホソクに優しく言われ、私は目を伏せてうなずいた。
今までにないほど、惨めな気持ちだった。
「じゃ、ちょっと家全体をまわってみようよ」
ジミンが明るい声で話題を変える。
「そうだね、何かわかるかもしれない」
「僕も見てみたい」
テヒョンとグクも口々に言う。
「よし、じゃあ行ってみよう」
リーダーを先頭に、七人は何もなかったかのように明るい雰囲気に戻って、てくてく歩き出した。
ワイワイと笑ったり、叫んだり。お洒落なランプや家具に歓声を上げたり。
私は気分が重いまま、一番うしろをトボトボとついていく。
お風呂へと続く廊下をのんびりわたる。窓の外は、雑木林だった。お風呂から見えたのも、この林だ。
変でしょう?砂漠の中の家なのに。でも、すごく素敵。日が沈み始めているのか空の色が暗い。木々の上を、見たことのない鳥が飛んでいく。遠くの空には、ぽつりと水色の星がひとつ。
私は窓から目を離して、ため息をついた。
私、うぬぼれてた。彼らのこと、可愛いと思った。かっこいいなと思った。テヒョンに、ジミンに、手を握られてドキッとした。ちょっとした表情に見とれて、ちょっとした優しさにときめいていた。
でも私、うぬぼれていたんだ。自分の立場をわきまえてなかった。彼らとは住む世界が違うことに、全く気づいていなかった。だから今、どうよ?取り残されてるじゃない、たったひとり。
電車でも、薄々感じてはいた。私が不安で仕方ないのに、彼らは楽しそうだった。あのときは、単に仲がいいだけだと思ってた。でもやっぱり彼らは違ったんだ。雲の上の存在なんだ。それをわかっておくべきだった。
今までは近くに感じていた七人の背中が、これまでになく遠く感じる。
胸が張り裂けるほどの、孤独。
こんなに傷つくなら、最初から一人のほうが良かった――
会いたい。母さんに。
そのとき、右の肩に遠慮がちに手が乗った。
はっとして振り返ると、ジミンがこちらを心配そうに覗き込んでいた。
「大丈夫?」
私はぱちぱちと瞬きしながらうなずいた。何も言えなかった。ジミンはふっと笑って前を向いた。
「さっきのことだけどね、落ち込むことないよ」
私と並んで歩きながら、ジミンはさらりと言った。軽く、でも優しい口調に、なぜか胸がきゅっと痛んだ。
「アーミーがいなくなったことにジョングギが最初に気づいて。ほんとに消えちゃったんじゃないかって心配してたら、すぐ戻ってきたから、ホッとしたよ。でもソクジニヒョンはあんまり安心したから、つい言い方がキツくなったみたい」
ジミンはそこで立ち止まって、私を見つめた。
「誰も怒ってないよ」
ジミンの瞳は美しい。真剣な顔だ。そういえばさっきも私を気遣って、さりげなく話題を変えてくれた。そして今、落ち込んでいる私のことを心配して、わざわざ慰めに来てくれたんだ。
ジミンのあまりの優しさに胸が詰まって、私は涙がこぼれそうになった。慌てて顔を伏せ、声がかすれないように気をつけながら、
「……ありがとう」
と言った。ジミンは黙って私の頭をぽんぽんと叩くと、テヒョンとジョングクのところに戻っていった。
私は、いつまでもその後ろ姿を見つめていた。
それからの私は、なんだか変だった。
気づけば、ジミンの姿を探してしまっている自分がいた。ジミンしか目に入らなかった。
ジミンの声が聞こえると胸が弾む。ジミンが楽しそうに笑うと、思わず微笑んでしまう。
なんだろう、この感情。
ジミンのことを考えれば考えるほど、心臓を鷲掴みにされたみたいに、胸が苦しくなる。無意識に鼓動が速くなる。血が騒ぎ、息が止まる。
皆が大興奮しながらお風呂を見学している間、私は一人脱衣所に残り、深呼吸して気持ちを落ち着かせていた。
するとテヒョンが風呂場から戻ってきて、「空がきれぇでしたぁ」と日本語で話しかけてきた。しかし私の返事が上の空だったので、彼はすっかり気分を損ねてしまったようだった。ブスッとしているテヒョンに、ジミンが「どうしたの?」と不思議そうに尋ねていて、私はぴょんと心臓が跳ねた。
1階を見学した後、一行は2階へと向かった。
「2階は何があるんだろう」
「寝室じゃないかな」
「うわあ、楽しみだー!」
ジミンがはしゃいでいる。
なんて無邪気なんだろう。かわいいなあ……。優しくて、かっこよくて、気遣いができて。アイドルだから、きっと歌やダンスも上手いだろうな。
なんて完璧なんだろう。
ジミン……
こんな気分、中学生以来かもしれない。
そう思いながら、そっと左手首の腕時計に触れる。
私、もしかして……
階段を上りながら、ジミンの背中を見つめる。
恋、したんだろうか。
第11話「これが初恋」、お楽しみいただけたでしょうか…?
アーミーの初恋は果たして実るのか…???
まだまだわかりません。始まったばかりです。
次回は「また、事件」。
#お楽しみに