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魔法少女 月下のセレナーデ12虚月錯綜するフーガ
˚₊⭑‧꒰ა 𝙼 𝙰 𝚂 𝙸 𝚁 𝙾 ໒꒱ ‧₊⭑˚
「朔夜……目を覚まして!」
天璃の声が震える。音羽は必死に走った。
ノクターンボウを飛ばしながらもダメージを与えられてないことに怒りを滲ませる。
琥珀も身軽にスターリーアクスを振りながら戦うが全く当たらず体力に限界が来ていた。
「くっ……!また私たちを……」
拳が震えるが、視線は天璃に向いている。
「天璃だけ失いたくないわ……!!」
琥珀も天璃の後ろに回り込み、魔力を展開する。
「……くそっ、もう同じ悲劇はおこさせない!私たちの苦しみを、痛みを他の人にひろげない!」
朔夜は無表情で歩み寄る。
魔力の奔流が彼の周囲で渦巻き、衝撃波が吹き荒れる。
「やめて!朔夜!ほんとは違うんでしょ!」
天璃が飛び込むが、黒い力に押され、足が浮く。
音羽は感覚的に次の一撃は私たち全員を殺す威力を貯めてる…と思った。
「動かないで!今倒さなきゃやられるわよ……!」
心の奥で怒りが渦巻く。少しでも気を許した彼に裏切られたこと。いや、もとから騙されていたこと。
「くそ……あいつは……」
琥珀も防御を固める。スターリーアクス(彼女の武器)はもう輝きはなく汚れ、壊れかけていた。
「……悔しい……今は逃げるしかないの!?」
3人の涙が頬を伝う。
黒い奔流が大きな波となって朔夜の周りにまとわりながら膨大な力を放出している。
三人は立っているのもあやしいほどの風に身をちぢめた。
天璃は立ち上がろうとするが、恐怖に声を震わせた。
「朔夜……お願い!あなたはもう朔夜じゃない!!次あったら敵だって言ったけど…」
あ、そっか、敵だもんね。急に天璃は理解した。シルヴァソードはまだ使い慣れないが音羽も琥珀も力尽きてる。私を守りながらずっと戦ってた。私は何をした?ただ泣いて敵にあなたは違うと喚いてただけ?足手纏いじゃん。
私が殺る。
「そんな甘い考えだったのか。敵だから殺す。ただそれだけのこと。」
朔夜は冷たい声で言い放ったが、天璃の言葉が脳の奥にわずかな揺らぎを生んだ。
「そうだね。残念だけど朔夜とはもう別れた。あなたは知らない人、ただの憎い敵。死んでもらうね。」
天璃の黒い瞳が影を落とし、シルヴァソードを両手に構えた。魔力が一撃のために集められ周りが眩い光になる。
黒い朔夜の魔力と天璃の白い魔力がそれぞれ激しく燃えている。
朔夜はさっきまで感情のなかった脳がどんどん明晰になってきて自身の心の核が戻ってきたような気がした。
天璃がここで俺を殺したら多分…
彼女の足枷になりたくない。
そして、俺も天璃を殺したくない。
じゃあ、
これがいいばんいい
黒い朔夜の魔力の暴走が一瞬収まり、三人は息を呑む。
「……くっ、…………?」
音羽の目に希望と恐怖が入り混じる。
「天璃、…落ち着いて!」
琥珀が周りを確認する。
天璃はまだ朔夜を睨んだままだ。まさにその銀色のつるぎで愛した人の命を奪おうと襲いかかる寸前。
「ふっ……俺こそ甘い考えだったんだ。もう後戻りできない……」
朔夜は自嘲気味に笑いその途端、彼の周りの膨大な魔力がぐんぐんと濃度を増しながら圧縮されていった。
天璃の光だけが異様に輝く。
「え……?」
音羽と琥珀は咄嗟に結界を強化した。
「天璃、またな……!」
大きな音と剛風が吹き荒れ木が折れる。
竜巻のように風が容赦なく空を切り裂く。
朔夜は自爆魔法陣を発動させた。
これでいいんだ。
消えるのは悪役で天璃たちにはボスを倒してもらわなきゃな……
爆発の閃光が夜空を染め、三人は光と衝撃に包まれる。
「俺が終わらせるから………」
小さなつぶやきは誰にも届くことなく爆発と共に朔夜の姿は無くなっていた。
琥珀と音羽は怒り、悲しみ、恨み、やるせなさを抱えながらもふっと笑った。
「…天璃が無事なら……」
光がすっと消え、天璃は切るものをなくした剣を落とした。
たださっきまで彼がいたところを眺めていた。
「しんじゃったの?…」
受け入れ難い真実にずたずたにされた天璃は何かを感じることを拒んでいた。
いろんな感情を一度に作りすぎた心は休みたがっているらしい。
悲しい?
寂しい?
嬉しい?
…
爆発の後、校庭は静まり返る。
朔夜は自らの命と魔力を消し、
しかし彼の残した痕跡――暗号、魔法陣の断片――が、
天璃たちにボスを倒す手掛かりとして残されていた。