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〖灰に消えた友〗
昔々、山里に心優しいお爺さんと、その妻が暮らしていた。お爺さんは働き者で穏やかだったが、欲深いお婆さんは日ごとに口うるさく、心は荒んでいた。
ある日、お爺さんが山へ芝刈りにいくと、一羽の小さな雀が近寄ってきた。
「ちゅん…ちゅん…」
お爺さんは憐れんで米を分け与えた。雀は嬉しそうに鳴き、お爺さんの肩に留まった。それからというもの、雀は毎日のようにお爺さんのもとに通い、孤独な彼にとってかけがいのない友となった。
だが、お婆さんはそれを快く思わなかった。
「雀なんぞに米をやるから、米びつが減っていくんだ!」
怒り狂ったお婆さんは、ある日雀を捕らえ、容赦なくその舌を切り落とした。血を吐き、鳴き声を奪われた雀は、山の彼方へ飛び去った。
その知らせを聞いたお爺さんは、涙を流した。
「どうか、あの子にもう一度会いたい…」
山道を辿り、深き森を越え、お爺さんはやがて雀の宿にたどり着いた。そこには無数の雀たちが集い、舞い踊り、優しく彼を迎えた。舌を失った小さな雀も現れ、震える羽を広げてお爺さんの胸に飛び込んだ。お爺さんは涙を流し、その身を抱き締めた。
別れの時、雀たちは礼として二つの葛籠を差し出した。
「大きいものと小さいもの、どちらかをお持ちください」
お爺さんは迷わず小さい葛籠を選び、家に戻った。
葛籠を開くと、中には黄金や宝が溢れていた。お爺さんは喜んだが、それを見たお婆さんは欲望に目を輝かせた。
「わしも雀の宿に行く!大きな葛籠を貰ってくる!」
そうしてお婆さんは山に入り、雀の宿を見つけ、大きな葛籠を選んだ。だが欲に塗れたその手に渡された葛籠は、ただの宝ではなかった。
家へ持ち帰り、蓋を開けると──中から笑われたのは黄金ではなく、牙を剥く鬼、腐り落ちた骸骨、毒蛇の群れであった。お婆さんは叫び声を上げる間もなく、群がる影に飲み込まれた。
残されたのはお爺さんと小さな雀。だが幸福は長く続かなかった。
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黄金の宝は村人たちの噂を呼び、やがて盗賊が押し寄せた。
「宝を寄こせ!」
お爺さんは抗う術もなく、血を流し、雀を守るために命を落とした。
雀は鳴けぬ喉で声なき叫びを上げた。肩を失った雀は山へ逃げ戻り、二度と人里には現れなかった。
やがてお爺さんの家は朽ち果て、宝は奪われ、村人の記憶からも二人の名は消えていった。
ただ山奥で、舌を失った雀の鳴き声の幻が、風に混じって聞こえるという。
これにて書き溜めが尽きてしまいました。暫くネタが思い付くまで更新頻度が遅くなってしまいます。
このシリーズは結構嬉しいコメントを頂けるので、本当に申し訳ないです。
大まかな内容でも何か案があれば良ければよろしくお願いします。