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#16 いざ、対面
スーツの男が出迎え、クソみたいに広い敷地内を案内する。なんでこんなに広いんだよ。
やがて高級感のあるドアの前で、スーツ男がノックする。その後、開ける。赤いふわふわっとしたソファで、当たり前のようにくつろぐ20代の男子。白いニットセーターはあったかそうで、セピア色の長ズボンはわりとセンスが良い。黒縁のメガネは知的なムードだ。細身で、ある意味弱そうだ。
「こ、こんにちはぁ」
良かった、と思う。
もしかしたら、顔を知られているのかもしれない。そう思ってメイクをして、パッと見は別人のように見せかけた。マスクとかもしてるし。
「名前は?」
本名はばれそうだ。偽名…どうしよう。
「さ…|佐藤幸子《さとうゆきこ》です、ふつうの佐藤に幸せに子と書いて佐藤幸子いいます」
1番多い佐藤に、田舎にいそうな幸子ならいけるだろう。いてもおかしくない。
「そう、佐藤幸子。僕は知っての通り、九十九律。九十九萬の息子だ。九十九家八代目当主だ。聞いたことがないか?『九十九情報網』」
「あんまり聞いたことないです、でも九十九さんが詳しいっちゅうことは聞いたことがあります」
「そうか。まぁ田舎だからな。それで、どんなビジネスをしたいんだ」
「うちの村をPRしたいんです。個人的なのがええなぁおもてます。あんまり自分が目立つのは好きじゃないほうで…内容はばっちり考えてますから、九十九さんにききたいおもて」
「そうか。依頼するのか?」
「自分でやったほうが達成感あるとおもてますんで、ホームページの作り方だけ教えてもろたら十分です」
金が入らねぇな、とでも思っているのだろうか。
「パソコンは?」
「あります」
取り出す。渡す。
「古い型のものだな…新しいのなら10万から15万ぐらいだろうか」
「あぁ…もっと安いのはありません?」
「8万はどうだ?ちょっとだけ古いのなら、もう少しスペックは高い。持ってこようか」
「見てみたいです」
律が立ち上がる。「来て」と言って、そのままついていくことにした。
廊下では掃除する人がぽつぽつとおり、ぞんざいに扱われていそうだった。暴力はせずとも、褒めもしない。給料を与えたらそれで満足だろう?そんな人間性が、垣間見えた。
階段を上がっていると、知っている顔があった。ネットだった。彼女もそれに気づいていた。上着のそでをまくり、 人差し指と親指の先をつけ、軽くはじくようにする。『少し』の手話だ。
「広いんだなぁ」
感心するようにして、親指以外の指を顎に当てる。『待つ』の手話。
『少し』・『待て』
少し待ったら、きっと助け出すから。
合図はたぶん、彼女にも届いた。