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【魔導院結界】肆
ルノア先生は、あれから一ヶ月で教師を辞めた。
理由は|公《おおやけ》に明かされていない。
きっと何か知られれば不味いほどの理由なのだ。
一方で、生徒達は困惑を隠せなかった。
「優しそうで良かったのに…」
「裏は無さそうだったのにね」
全く、これが人を偏見で決め付けてはならないを捻った版だろう。
ラウニャは、ルノアが辞めた事よりも、ランが帰って来ないことに疑問を寄せていた。
昔から、ランは読めない所がある。
自分については一切話さない。
聞き返されそうな疑問は口にしない。
という風に。
ただ元気があるだけの読めない女子。
その時。
コンコンと扉がノックされ、開かれる。
「…どうも。…学長から、とある事を知らされたんだけど」
瑠璃色の髪に|月白《げっぱく》の瞳。
黒縁の眼鏡をかけている少年は、生徒会長のツキ。
この魔導院にも、生徒会長という役職的なものはいる。
「ルノアの過去が判明した、と」
ツキは、ルノアがレベリアー皇帝国前衛軍に所属している騎士であったこと。
かつてのエニアス銃刀権利戦争の当事者であったこと、そこで幾人の騎士を殺めたこと。
ーーー『|贄灯《にえあかり》の団』に所属した魔導士であることも。
贄灯の団は、この国と隣国で知られる悪魔の組織。
主に他国に拠点を置き、この国で優秀な魔導士を殺めるという。
贄灯に所属する者のほとんどが、国の騎士、大魔導士で、この国は贄灯の根絶に手こずっている。
「何かされなかったか?」
ツキは皆に聞いた。
皆は黙ったままだった。
何かされた覚えはないし、むしろ良い先生だった。
***
「ラン〜?リナーメル?」
王室の扉前。
室内にただ呼び掛ける少年がいた。
「…気配はしませんが……気配隠し術で隠している場合もありますし〜」
左目を札的な白紙で隠している灰翠の髪。
レベリアー皇帝国において最強の魔術師、レヅサ。…の、背後には、灰藍色の髪の少年ーールィ。
「王室前に構える騎士|達《ら》も居ませんね〜」
レヅサが王室前を動き回る中、ルィは静かに佇んでいる。
「……、魔術痕が残ってます」
「……転移術陣の気配は?」
「微かにですが、」
言いかけた所でレヅサが静止する。
「…ルノア?」
ーーー・・
「や…やめて…離して…っ」
「ちょっと〜、動くなよ〜?すこーし痛いだけでちゅよ〜」
(…さて、もう直ぐかしら。)
ルノアは、察した。