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ある夏。
りう。
みなさんは夏祭りに行きましたか?
夏祭りも楽しいだけ、ではないのかもしれません…
「はぁ…」
世の中が「夏祭り」一色に染まる中、奈々美は1人、真っ暗なテレビを、ただ見つめていた。どのチャンネルに回しても夏祭り特集、夏祭り必須アイテム、…夏祭りについてだ。奈々美はもうずっと前から、夏祭りには"行けない"というのに。仕方なく、普段は見ないドラマを見ていたが、内容なんて覚えていない。テレビの電源は、少し前に落とした。ふと外を見ると、夏祭りから帰ってきたらしい小学生くらいの子供が、ハイテンションで喋っている。
『綿あめ美味しかったー』
『明日も来よ』
奈々美はこの時期が1番苦手だった。キャッキャと騒ぐ子供の声、これみよがしにイチャつくカップル__どれも自分にはないもので、羨ましさからか、夏祭りの提灯を見ることさえ耐えられなかった。窓とカーテンをしっかりと閉める。何も聞きたくない、見たくないとでもいうように。
「さっさと雨とかで、なくなってよ…」
誰に聞かせるでもなく、奈々美はつぶやいた。憂鬱さゆえか重い足を引きずり冷蔵庫を開ける。
「減ってきてるな…買い物行かなきゃ」
最低限の身支度を整え、目立たない服を着て、玄関を出る。できるだけ人通りを避けるように、細い路地を歩いていく。しばらくして、奈々美が目印にしている赤いポストが見えてきた。ここを曲がれば、スーパーアオヤマが見えてくるはずだ…。
しかし、見えたのは全く別の光景だった。スーパーなどどこにも見当たらず、…夏祭りの景色だった。反射的に、二歩後退する。こんなところに居てはいけない。だが、その意思に反して、足は夏祭りの方へ進んでいく。見たくないはずなのに周りを見渡してしまうと、妙に静かだった__人が全くもっていなかったのだ。
「え?」
スーパーアオヤマに行こうとしていたことなど、とうに忘れていた。金魚は泳いでいる、鉄板は熱いまま、風鈴の音は鳴っている、なのに、人がいない。さっきまで、人がいたように。プルル、プルルル…と何度か着信音が鳴ったが、出る余裕などなかった。
何かに引き寄せられるように、奈々美は奥へ、奥へと進む。
どのくらい歩いていたのだろうか。とにかく、時間がわからなくなるくらい歩いた時、不意に着物姿の少女が飛び出してきた。中学生くらいだろうか。サッと避けようとすると、その子はありえないほど強い力で、奈々美の腕を掴んで離さない。少女は
「これ以上は行くな。ここに来ることは許されない。今ならまだ間に合う、引き返せ!」
とその姿には相応しくない、不思議な口調で意味不明なことを話し出した。ほんの一瞬だけ、足がさっき来た方向へ向いた。
「いいから…大丈夫!」
腕を引っ張られる痛みを無視して奥へ行く。いつのまにか少女は消えていた。
永遠に続くかもしれない、鳥居さえまだ見えない夏祭り。奈々美は、どこへ行こうとしていたのだろうか…。
『では、次のニュースに移ります。昨日、駿河区で、娘が行方不明になった、と警察に通報がありました。女性の母親は、スーパーに行くと連絡を受け、嫌な予感がしたため電話をかけましたが、すでに音信不通になっており…』
「怖いわぁ…こんな身近で」
奈々美の家の近所の、もう奈々美が2度と会うことのない主婦が呟く。
スーパーアオヤマの前に、1人の少女が立っていた。路地の方をちらりと見る。
「警告したのに。ま、代わりに私が戻れたし…」