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4話「危機はすぐそこに」
アルデニア町に来てからしばらく歩き回ったミオたち。
市場を抜け、広場を通り、路地を覗き込みながら“記憶の欠片”を探していた。
「……でも、ぜんっぜん見つかんないね」
ミオが肩を落とすと、ルナが苦笑した。
「欠片は光で示されるはずなんだけど……隠されてたりすると分かりにくいんだよね」
「ポヨ~……」
ポヨまでしょんぼりしている。
ミオは空を見上げた。
“人と心が交わる場所にある”
古道具屋のおばあさんの言葉を思い返していると――
ドォンッ!!
突然、町の中心方向から大きな音が響いた。
「えっ!?なに今の!」
ルナの表情が一瞬で引き締まる。
「……魔物だ。町に迫ってる!」
「ま、魔物!?なんで町に!」
「分からない。でも急がないと危ないよ!」
町の人たちのざわめきが広がる。
遠くで子どもが泣き、店の人たちが店を閉め始めている。
ポヨはミオの足元にぴたりと寄り、震えていた。
ミオの胸がぎゅっと痛む。
――怖い。
でも――
「……行こう、ルナ!」
「ミオ、危ないんだよ?無理しなくても――」
「でも、逃げてる人がいるのに黙ってられないよ!」
ミオはきっぱり言った。
自分でも驚くほど強い声だった。
ルナは一瞬目を見開いた後、ゆっくりとうなずく。
「……分かった。ミオを守りながら行くよ!」
「ポヨッ!」
ポヨも勇気を振り絞ったように、ぴょんと跳ねた。
■町の広場へ向かうと
広場はすでに混乱していた。
逃げる人、助け合う人、涙を流す子どもたち。
そして――
広場の門の先で、黒い霧のような“何か”がゆっくり形を作っていた。
「……あれが魔物?」
ミオは声を失う。
黒い影のようで、目も口もないのに、こちらを見ている気がした。
「あれは〈影喰い〉っていう存在だよ。闇に紛れて、弱った心を狙ってくる……!」
ルナの声は震えていた。
見習い守護士でも恐れるほどの魔物。
ミオも足がすくんだ。
――怖い。
――なんでこんな目に。
――誰か助けてよ……。
胸に冷たいものが広がる。
その時。
「ポヨッ!!」
ポヨが、ミオの手に身体をぐいっと押しつけた。
温かい。
「……ポヨ?」
「ミオ、大丈夫!ぼくがいるよ!」
ルナも前に立つ。
「ミオはひとりじゃない!さっきそう言ったでしょ!」
ミオははっとした。
“仲間がいるなら進める”
自分で言った言葉だ。
震えはまだ残っていたけど、ミオは深呼吸し、影喰いを見つめた。
――逃げたくない。
――目をそらしたくない。
同時に、ミオの胸の奥から淡い光がふっと漏れた。
「えっ……光ってる?」
ルナが驚いて振り向く。
「ミオの“記憶の欠片の反応”だ!近くにある!」
「そんなタイミングで!?」
「でも逆に言えば……この“危機”こそが欠片の場所なんだ!」
ミオはきゅっと拳を握る。
「分かった……!行こう、欠片を――そしてみんなを守るために!」
ポヨが跳ね、ルナが風の魔力をまとい、ミオは光をまとったまま一歩踏み出した。
影喰いが、低い唸り声のような音を出す。
町の中央で、戦いの幕がゆっくりと上がる。
――危機はすぐそこに。
でもミオは、初めて自分から前に出た。
次回5第話「記憶が呼ぶもの」
12月15日18時投稿!