公開中
【第拾話】信じてるから。
〜火影 side〜
火影「……………ふー……」
焔颶「お?さっきまでの勢い無くなったな?やっぱ毒回ってくるとキツいやろ?」
「あんたの体格やと…あと2分くらいで内臓から溶けてお陀仏や。」
火影「……………」
焔颶「…ま、別に黙っててもええわ。最期の断末魔さえ聞ければ十分やからな。」
そういうと焔颶は、手に光る爪を長い舌で舐める。
私はふらつく身体に鞭を入れ、白焔と幽月魄を構えた。
--- **`毒が回り切るまで`** ---
--- **`01:45`** ---
***焔颶「……じゃあな!!」***
***ドンッ!!***
焔颶が床を蹴って突然目の前に現れた。
私は迷わず後ろに下がり、白焔を振り切る。
__シャラッ!__
*火影「`|瘴焔刃環《しょうえんじんかん》・|睡《すい》ノ|舞《まい》`!!」*
*ザシュッッ!*
***ボワッ!!***
刃が焔颶の手を切りつけた瞬間、その部分が突如紫の炎に包まれる。
焔颶はそれを一瞥したのち、思い切り腕を振って炎を消した。
**焔颶「こんな小細工聞くと思ったんかぁ!!?」**
火影「……いや。」
**焔颶「ほぉ!?ずいぶん余裕かましてくれるやんか!!!」**
*ダッ!!*
焔颶は地面を割るほどの脚力でこちらに迫ってきた。
そして握りしめられた拳を私の顔に向ける。
*火影「!!`|天裂九重焔《あまさきここのえほむら》 `!!!」*
__シャランッ…__
そう叫んだ瞬間、周りの空間が裂け、そこから無数の蒼炎が現れる。
その蒼炎は狐に姿を変え、焔颶に飛びかかった。
***ボワッ!!!***
焔颶の身体に火がつき、一気に蒼い火柱があがる。
しかし、中の焔颶の顔には、炎には似合わない笑みが貼り付けられていた。
焔颶「………ははっ!!」
***バッ!!***
焔颶は腕を大きく振るい、炎を裂くようにして消す。
そして振り解いた勢いのまま、こちらに狙いを定める。
**焔颶「お前の力はこの程度なんかぁ!!?」**
火影「……!」
私は素早く攻撃体制に入った。
……しかし。
*ズキッッ……*
火影「いっ…!?」
足が突然猛烈に痛み、私はバランスを崩す。
その隙を見逃さず、焔颶は私の腹を目掛けて拳を突き上げた。
***焔颶「おらよっとぉ!!!!」***
火影「!!」
***ドスッッッ…!!***
火影「…っ!?」
*ドシャッッ……*
私は数メートル上空に吹き飛び、受け身も取れずに地面に落ちる。
そのまま地面を跳ね、勢いよく木に激突した。
火影「……グフッ…ゲホッ…!!?」
__*ビチャビチャ……*__
口に溢れた血を地面に吐き出す。
足元にはすでに大きな血溜まりができていた。
--- **`01:09`** ---
__ザッ…ザッ……__
焔颶「………おぅおぅ、こんなにすぐ弱られたら困るで?なぁ…?」
__火影「…………カヒュッ……ふー…ふー………」__
焔颶「毒の巡りも相まってもう立つ体力も気力もないやろ?」
***ドカッ!ドカッ!!***
*火影「……っ!!ゲホッゲホッ…!!?」*
そう話す間にも焔颶は私の顔や腹を蹴る。
そして相変わらず、見下すような不敵な笑みを浮かべて私を睨んだ。
***ガシッ!!***
突然、焔颶は私の前髪を思い切り掴み、自らの顔に引き寄せた。
しかし私にはもう、それに対抗する気力はなかった。
***焔颶「舐めてた奴にボッコボコにされた気分はどうや!!?」***
焔颶はそう言って、癪に障る顔をこちらに向けながら私の頭を揺さぶった。
__火影「……………ゲホッ……」__
焔颶「……あーあ、遂に毒でほとんど話せんくなったか…まぁええわ。」
そういうと焔颶は私の首を横へ向ける。
焔颶「まだ目は見えてるよな?今あんたは崖の前におるんや。」
「もちろん今のあんたが落ちたら即死。粉々になって跡形も残らん。」
__火影「……………」__
焔颶「ま、それは可哀想やから、わいが崖に落とした後ですぐ切り刻んだるわ。」
「なんせわいにはこの翼があるからな。空やって飛べる。」
--- **`00:42`** ---
焔颶は私を崖のすぐ目の前まで引きずっていった。
私はわずかに動いた目で、崖の下を覗く。
そこには、ただどこまでも続く深淵が広がっていた。
焔颶「遺言くらいなら聞いたるでぇ?ほら、言うてみ?」
火影「…………………」
焔颶「………ふん、最期までダンマリか。ほんまにつまらん男やな。」
私は焔颶の後ろ、木の上をもう一度確認する。
そこには何の生き物の影もなかった。
焔颶「最期に教えたる。あんたの毒を消すにはわいの蛇の首を落とせばええんや。」
「……苦しみから解放されるための手段が目の前にあるのに何にもできへん…」
「………それってさぞ悔しいんやろうなぁ…?」
焔颶の後ろから、美しい白蛇が顔を出す。
そして私の目に顔を寄せ、『シャー』と一声鳴いた。
**焔颶「……ほななっ!死ねっ!!!」**
**ブオォン!!**
***ビュオオォォオォォ…!***
私は思い切り崖の外へ放り出された。
抵抗もできず、ただ風を受けながら落ちていく。
--- **`00:27`** ---
***ダッ!!***
私が落ちていくのを見た焔颶が、黒い大きな翼を広げて崖から飛び降りる。
その表情は、今までとは比べ物にならないほど醜く……
……………滑稽だった。
***焔颶「毒に侵されて一人切り刻まれるなんて可哀想やなぁ!?」***
火影「…………ふん、毒に侵されているのはお前もだろう?」
焔颶「!?お前まだ話せたんか…!!?」
火影「お前はこの戦いで三つの失態を犯した。」
焔颶「…はぁ?」
火影「一つ、死にかけの敵に簡単に自らの強さの秘訣を話したこと。」
焔颶「…はっ!!だからなんや!?お前はもう動けん…**って!?**」
火影「二つ、自らの身体が毒で犯されていくことに気づかなかったこと。」
**焔颶「……!?羽が上手く動かせない…っ!!!?」**
火影「っっ!!!」
*ドンッ!*
その隙を見て私は、翼が麻痺して動けない焔颶を全力で蹴飛ばす。
私と焔颶の間に大きな空間が生まれる。
………《《刀を振っても当たらないくらい》》には。
***バッ!!***
その瞬間、仰向けで落ちる私の目に、二つ目の影が映る。
……見覚えのある黒い翼が私たちに急激に迫る。
--- **`00:08`** ---
火影「………三つ。《《私が一人で戦っていると勘違いしたこと》》。」
??「あ〜あ。ずっと見てたけど、ほんっと馬鹿だよなあんた。」
焔颶「!!?」
??「…悪ぃけど、こいつ殺すわけにはいかねぇからよ。」
**「おーらよっとぉ!!」**
***ザシュッッ!!!***
その男は、緑の風を纏う刀で、白蛇の首を切り落とした。
白蛇「ジャアアァ…ッ!!」
焔颶「なっ…!!?」
**??「ほらよっ!!受け取れクソ狐っっ!!!」**
***ドカッ!!***
その声と同時に、男は焔颶をこちらへ蹴り飛ばしてきた。
私はそのまま飛んできた焔颶を足で捉える。
そんな私の体からは、すでに毒気は消えていた。
火影「…舐めていた狐にボコボコにされる気分はどうだ?」
焔颶「……ははっ!前言撤回するわ…あんたやっぱめっちゃおもろいなぁ…!!」
火影「だから言っただろう。最後に立っているのは私だとな。」
私は腕を後ろまで下げ、渾身の力を込める。
__シャリンッ!__
*火影「`幽焔ノ儀・魂喰`…っ!!!」*
***ジャキンッ!!***
焔颶「……っ!!」
火影「…………………」
__*ふらっ……*__
***ガシッ!!***
??「……っとと!!お前ら二人とも死にてぇのかよ全く…!!」
そういうと男は私たち二人を崖の上まで運んでいった。
---
***ドサッ…***
??「…ったく、何でお前を俺が助けねぇといけねぇんだよ…!!」
火影「…………ふぅ……遅かったじゃないか、天舞。」
天舞「……ちっ…クソ野郎が…帰ったら天ぷら作れよな?」
火影「わかっている。いちいち煩い。」
***天舞「はぁ!?助けてもらっておいてそれかよこの野良狐が…!」***
そう叫んでその男…天舞は私の胸ぐらを掴んで大きく揺さぶる。
と、その時、もう一人の声が私たちの間を抜けていった。
__焔颶「………ははっ…!」__
天舞「うわっこいつ急に笑い出したよ怖っ…」
焔颶「なぁなぁ、あんたどうやってわいに毒仕込んだん?」
火影「……私の技『瘴焔刃環・睡ノ舞』は、相手を麻痺させることができる。」
「でもお前なら恐らくすぐ気づく。だから一部にだけ毒を送った。」
焔颶「……へぇ〜、なるほどなぁ。こりゃあ一本取られたわ。」
そう言って焔颶はまた笑い出した。
私と天舞は、ただ見ていることしかできなかった。
やがて、焔颶が口を開いた。
焔颶「…なぁ、火影と言っとったなぁ…?最後にもう一つ教えてぇや……」
火影「………なんだ。」
焔颶「……あんたら、随分仲悪いみたいやんか?」
火影「そうだが、それがどうした?」
天舞「本題早く言ってくんね?」
焔颶「………何で成功するかもわからん作戦を、あんな一瞬で実行できたん?」
「いつ裏切られるかわからんリスクあんのに、なんでそんなことできたんや?」
その問いに、私たちは数秒黙り込んだ。
次に口を開いたのは私だった。
火影「……当たり前だ。」
焔颶「……?」
火影「私は天舞のことを、誰よりも嫌っていて、誰よりも信じているからな。」
天舞「俺も同意見だ。こいつのことは世界一嫌いだが、信用はしてる。」
焔颶「……ほぉ…?つまりは友情か…?」
天舞「はははっ!そんなもんじゃあねぇよ。なんせ俺らは、《《家族》》だからな!」
火影「私たちに勝負を挑んだ時点で、お前の負けは決まっていたのだ。」
焔颶「………ははっ!!これまたおもろいこと言うなぁ……!!」
そう言って焔颶はよろよろと立ち上がった。
私も天舞の肩を借りながら立つ。
焔颶「……ふぅ…次は負けへんで…?火影。天舞。」
火影「次も勝つのは私たちだ。」
天舞「100万年後に出直しな。」
焔颶「……ふんっ!じゃあ、またどっかで会おなぁ、火影。」
__ズル…ズル…ズル………__
私が一撃を入れた足を引き摺りながら、焔颶は森の中へと消えていった。
それを見届けた後、私の足からも力が抜ける。
*ドサッ…*
__火影「………っ…」__
**天舞「うわっ!!?急に寄りかかんなよこの野**
__火影「…………ありがとう…天舞…」__
天舞「!!……クソが…手間かけさせやがって……」
*__ヒュウゥゥ……__*
また、いつもと同じような風が、私たちの間を通り抜けた。
冷たく…痛く…強く……それでも、どこか優しい香りを運ぶ風だった。
__火影「…………右足が痛い……」__
天舞「あ?」
__火影「………最初に…落とされた時から……ずっと…………」__
天舞「ちょい診せてみろ……ってお前これ折れてね?なんか腫れ方もおかしいし…」
__火影「…………?」__
天舞「……お前まさか『捻挫だろう』とか思って無理やり動かしてねぇよな…?」
__火影「……………捻挫じゃ……なかっ…た………のか……」__
***天舞「お前マジで馬っ鹿じゃねぇの!!!?」***
---
第拾話 〜完〜