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第5回 時間研究者ってなんですか!?
橘先輩に連れてこられたのは、アパートの一室。
「ショウコ、いる?」
「うん」
ガチャ、とドアが開いた。
「でも……まぁ、いいよ」
彼女は暗くて、メガネをかけている。ちょっと話しかけづらい。ショウコってどうやって書くんだろう、と思ったら表札にあった。|彰子《しょうこ》か。一瞬、藤原氏の一族の|彰子《しょうし》かと思った。
暗い部屋で、パソコンが光っていた。
「み〜んにゃ〜、こんにゃっ、ミスズだにゃん☆」
紫のネコ耳に、ピンクと紫の髪。活動者らしい。
「見ないでっ!!」
人きわ大きい声。壁には制服。
「すみませんっ」
「敬語じゃなくていいよ、暦。彰子も中1だし」
「その割には、聞いたことない名前…」
「すみません。わたしは田町彰子です。隣の大崎中の1年ですから、知らないでしょう。まして、わたしは不登校だし」
そうだったんだ。
「それで、時間研究者だって」
「はい。歴史ではなく、時間。時の流れや、タイムスリップなど、時間を…うーん。歴史研究は時間を文系、時間研究は時間を理系、としてみている…がわかりやすいでしょうか」
なんとなくわかる。
「わたしたちは、暦さんのような突発的歴史旅行者を減らしたり、もっとタイムスリップが便利で安全になるよう研究をしています」
そう言って、彰子は紙コップに麦茶をいれた。冷たい麦茶が、口、食堂、胃とほてった体に染み渡っていく。
「それで…暦さんは特殊な人だと聞いたのですが」
「特殊…なのかな?わたし、タイムスリップすると同時に偉人の肉体になっちゃうんです」
彰子は一瞬、紙コップを倒しそうになった。
「そんなに珍しいんですか!?」
「うん。珍しいにもほどがあるくらいです。時間研究者だけではとても…もっと、肉体憑依に近いかもですけど。そういうのはちょっと、専門外で。すみません。でも、タイムスリップしないのであれば、肉体憑依もしないでしょうから…取り敢えず、タイムスリップが起こりにくくなる『時間旅行制限薬』でも飲んでください。あ、お金はいりません。__まだ試験中の薬なので__」
にくたいひょうい…???
彰子にもらった、よくある錠剤タイプの薬。毎晩飲めばいいんだろう。
「本部にも言っとく、異常な時間旅行者が出てきたって。政府は新たな研究の実験体として、暦を保護するだろうから」
「じ、実験体?!」
橘先輩から出てきた言葉に、恐怖を感じた。
「時間研究者の名にかけて、絶対に暦さんの謎を解明してみせるから」
ふふっと笑った彰子の顔に、少しにやけ顔が混じっているように見えたのは、怖い言葉を聞いたからと信じたい。