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16.第一王子のお言葉(笑)
そして、次の日になった。
今日は、大間抜けの第一王子のお言葉がある日だ。
心なしか、王都全体がざわめいているような気がする。
ちなみに、昨日もらった号外には、大した情報は無かった。
だからこそ見に行きたい。
「サムエル、広場に行っていいよね?」
「もちろんです。……私もついて行ってもよろしいでしょうか?」
「? 構いませんよ」
「ありがとうございます」
何故かいつのまにか部屋の近くにいたサムエルを呼んで、許可をもらった……が、なぜか一緒に行くことになった。
聖女の管轄がだれだかは知らないが、サムエルの立場がこの神殿では一番高いんだから、問題ないだろう。
それにしてもサムエルはいつまでこの神殿にいるんだろう? そして彼は何者なのだろうか?
「ベノン、行くよ」
「かしこまりました」
広場には、もうたくさんの人がいた。
できるだけ目立たない格好で来たつもりだったけど、やっぱ護衛がいるからか、チラチラ見られる。
そして、あれからも聖女としての仕事をしていたせいで……
「聖女様かしら?」
「なぜここに?」
「神殿所属なら関係ないでしょうに。わざわざここにいらっしゃらなくても構いませんのに」
「おかあさん、どうしたの?」
こうなる。
変装とかやったほうがいいかなぁ。
エリーゼ……変装出来るかな? 今度試してもらおうかな。
ちなみに、サムエルは私の後ろでひっそりと立っていた。
これが枢機卿?
知らない人が見たら驚くだろうな、と思う。
そして、第一王子が現れた。
「やあ! 皆の者、初めましてかな?
会ったことがある人もいるだろうが、私がこの国の第一王子、ムニダスだ。
そして! これからのこの国の王だ!」
えーっと、それって確認は済まされているのかな? ちゃんと認証されているのかな?
確か、この国には第三王子までいたと思うんだけど……
「父ちゃん、あの人が新国王なの?」
「さぁ……」
みんなも戸惑っているようだ。
「皆が戸惑うのも分かる。皆は私の治世が来るのがもっと後だと思っていたのだろう?
だが安心してくれ! 今すぐに、私の治世がやってくる!」
「馬鹿ですかね、この王子は」
みんなが戸惑っているのが分かるようだから、と安心したけど、勘違いしているし、あまり期待できないなぁ。
サムエルのあの発言は…聞かなかったことにしよう。
「では、まずなぜ私が父上……国王を殺したのか、を語ろう。
先日、私のもと……父上のもとに報告が来たのだ。
皆も知っているだろう? 聖女奪還の件で、だ。そこで、組織がどんな目的で聖女を誘拐しているかが明らかにされた。
なんと! 彼らは今の政治に問題があると思っているようだ!」
「親殺しの大罪を犯したくせに。あぁ、女神よ、彼に制裁を」
間違ったことは言っていない。
なぜか、ここでの民衆の説得にこの王子が成功してしまうような気がした。
サムエルは……。うん、そのまんまだ。ちゃんと信仰心あったんだ。
「父上は、その報告を無視した。
だから、私が立ち上がったのだ!
彼らはきっと、父上の政治に疑問を抱いているのだろう。だったら私に代われば、彼らは何も文句を言わないのではないか? そう思ったのだ」
「ふん、馬鹿め」
民は、ふうん、と聞き流している。多分、知らない情報だからだろう。
「彼らが不満に思う政策については心当たりがある。私が即位し、1年以内に、その政策を取りやめることを誓おう!」
「嘘つき野郎、お前に出来るものか。というか何だと考えているのか。絶対不要なことをしでかす」
そこからも王子の長い語りは続いた。
サムエルの異常さに気づいたのか、少し、サムエルの周りが、ぽっかり、空いていた。
「そして!」
ああ、もうすぐ終わりかな?
「ここで皆に朗報がある!」
民は、結構この王子に乗せられている。
今の発言にも、皆が興味を引いているのが分かる。
「私は、聖女ユウナと婚約している!」
「聖女ユウナ?」
「誰かしら?」
「ユミ様じゃないの?」
サムエルの突っ込みが聞こえないな、と思ったらいなかった。
何処に行った?
「ゴホン、ユウナは聖女ユミと一緒に召喚された聖女だ。彼女は王宮で働いてくれている」
「へぇ~。けれど、ユミ様じゃあないのか……」
「ユウナ様って何かしてくれたかしら?」
「まあ聖女だから……」
あらら、私の評判で佐藤さんが消えちゃっている。
可哀そう。
さらに、そのせいでさっきまであった期待が少し減っちゃっているような……気の所為だよね。私は何も知らないし気づいていない。
そう言い聞かせることにした。
「ともかく! そういうことだから、これから私の治世をよろしく頼む! 戴冠式は20日後に行う! 私に見合った素晴らしい式典にすると約束しよう!」
一度私のせいで期待を薄めた国民は、今の発言で戻っていった。
こんな簡単に流されちゃう国民というのは問題だな。
ま、私にはあまり関係ないか。
佐藤さんが何処からともなく現れて、王子の下へ向かった。
「ちょうど彼女が来てくれた。彼女が次期王妃、ユウナだ!」
「あら、可愛い」
「そう? 性格悪そうよ?」
「うわぁ」
うん、三種三様の反応だね。
そして、そんなセリフで王子は帰っていった。
今の発言で、これからのみんなの反応が分かれそうだな。どうなるんだろう?
「第一王子様かぁ。今まであまり聞いたことが無いよな?」
「それに聖女ユウナだっけ? 聞いたことないなぁ」
「だよな、最近聖女として活躍してくれた聖女様ってユミ様だけじゃないの?」
「他国もあんまり聞いたことないなぁ」
「ねえねえ、だいいちおうじさまはどんなことをいっていたの?」
「ちょっと待ってな」
私が褒められてしまっている。
気恥ずかしい。
その時。
バァン!
そんな音が聞こえた。
何か起こっちゃったかな?
「何だ?」
「こわいよう」
王子が行ったほうから人がやってきた。
「第一王子が、殺されました!!」
え? 王子の護衛ってそんな弱いの?