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収穫のお手伝い
一つ目の山を越えた辺りで小さな村が見えてきた。ホアーメはのどかな農村である。アリフェは自身の暮らしていた村に似ていて親近感が湧いていた。
「旅の御方、連れているのはイヌですか?」
1人の男性が尋ねてきた。ここで
「いえ、オオカミですよ」
なんて言えるはずがない。そんなことをした暁には牢屋に入れられる程度ではすまない気がして少し答えるのをためらった。数テンポ遅れて
「飼いイヌなんです。大型種のイヌで名前はルーフっていいます」
ここはイヌとしてごまかしておくことにする。
「立派なイヌですね。大型だからかオオカミに見えてしまって」
「かっこいいでしょう」
嘘をつくというのは良心が少し傷つくが時には嘘も大切だ。どこかのことわざでそんな言葉があったような気がしたが、あれはどこのだったか。アリフェはそんなことを考えながら村を散策していた。
「そこの君、今ひま?ちょっと手伝って欲しいんだけど」
突然村の女性に話しかけられた。どうやら人手が足りないらしい。特にすることの無かったアリフェは快く承諾した。
「いいですよ。何を手伝えば良いのでしょう?」
「プリコータを収穫するの手伝ってくれない?今人手が足りなくて」
女性の指を指した先には大きな木が並んでいた。よく見ると実が沢山実っている。収穫のためだろうか、木の回りには人だかりができていた。プリコータとは星の季節に花を咲かせ花の季節に実をつける木の実である。栄養価が高くさまざまな調理法があることから多くの土地で栽培されている。ここホアーメはプリコータが名産品であった。
「お安いご用です」
「手伝ってくれるの? ありがとう。この辺りってさ若い人が少ないから毎年大変なんだよね」
「そうなんですか?」
そう話しながら1つずつ丁寧にもぎりながら籠に詰めていく。
「せっかくだし1つ食べてみる?……この辺りが熟してて美味しいと思うよ」
指差した先のプリコータはよく熟しているようだった。
「いいんですか?食べても」
「たくさん実っているし、それにいろんな人に食べてもらえる方が嬉しいじゃない?」
「それもそうですね。それではお言葉に甘えて、いただきます」
皮を剥いたプリコータは甘い香りがした。1口かじると甘酸っぱい味が広がって後から甘い香りが鼻から抜けていく。アリフェはあっという間に1つ食べきっていた。
「あっという間に食べきってしまいました。とっても美味しかったです」
「それならよかった」
太陽が天辺に昇った頃に収穫が終わった。籠は全部で8籠。プリコータが入った籠はズッシリと重かった。何度か往復しながら倉庫に運んでようやく作業が終わった。
「手伝ってくれてありがとう! プリコータの収穫慣れてたの? ってくらい手際が良かったから早く終わったよ。これ、お礼ね」
と手渡されたのは干したプリコータが入った瓶だった。
「いいんですか?」
「いいのよ。今日はありがとうね」
「こちらこそありがとうございます」
それからというものアリフェはこれから滞在する数日間、作物の収穫を手伝うことになった。アリフェがいない間、ルーフは村の子ども達と楽しそうに遊んでいる。
再び旅に出る頃、収穫のお礼にと収穫した作物や作物を加工した食材を持たされるのだった。
「少しの間でしたがありがとうございました」
「いいのよ、収穫のお手伝いありがとう、また遊びにきてね」
「ワンちゃんもばいばい!」
遊んでいた子どもたちに話しかけられるとルーフは
ワフッ
と鳴いて尻尾をパタパタ降っていた。
「また機会があれば伺います。では」
アリフェは一礼すると次の山を越えるために歩き出した。ルーフは隣を歩いている。
今日はよく晴れている。雲1つない青空だった。
ホアーメ
プリコータが有名な農村。この村にプリコータ研究家なる人物が暮らしているのだとか。プリコータのことなら何でも知っているらしい。