公開中
雫石
目の前の人間から、大きな雫が落ちる
その雫は光に当たって花に落ちきらきらと宝石のように輝いていた
人間と無縁だった自分が初めて綺麗な涙を見た瞬間だった
---
『あ“ーーーーーー!』
「…どうしたんだ人間」
自分はこの人間の家に数日前から匿ってもらっている
匿ってもらう代わりに掃除や洗濯、料理をしているのでいい方だと思っている
『人間じゃなくて佐由!まーた書類増やされたぁぁぁぁ!』
このうるさい人間はまた生徒会?の仕事を増やされたのか
「前から思っていたが人間」
『佐由!』
「人間はなぜりょー生活?も選べたはずなのにアパート?に住んでいるんだ」
『うーん絶対寮とアパートなにか知らないでしょ、こっちの方が楽だから!』
「楽?楽なんかで自らの生活を決めるのか?」
『あったりまえじゃん!…と思ったけどそうだねあんたはそう思うよね〜』
「寮?の方が聞いた話では遅刻しづらくご飯もでるのだろう?それに友達ができやすいときいているが?」
『うん、見事に利点しか知らないのな』
「欠点があるのか?」
『あるよ、……多分』
「しらぬではないか」
毎日、こんなことを話しながら自分はご飯を作っている、もう風呂は用意してあるし布団は朝洗濯もして乾かした
我ながら見事だと思う
『今日のご飯なに?』
「自己流のカレーだ、野菜嫌いの人間用のな!」
『え、野菜あるの』
「当たり前だ、よーく刻んでカレーに混ぜたのだ」
---
自己流カレーの作り方(真似しないでください、できません)(こいつは日本語が変です)
1、野菜をミリ単位で刻む
2、水を沸かす
3、カレー粉と野菜と隠し味を入れる
4、魔法で10秒超強火して野菜を完全に溶かす
5、ご飯を器に乗せてカレーを載せる
完成
---
『……毎回思うけどなんでその作り方でおいしくなるのやら』
人間は野菜が嫌いで一番嫌いなのはジャガイモらしい、食感が面白いので自分は好きだ
『あとなんで毎回1人分しかないの?あんたの分は?』
「それ以外の食べ物があるんだよ」
そう、食べ物は他にある
『ふーん、まぁいいや、もう風呂って入れる?』
「入れるぞ」
『おっけー、ご馳走様〜、入るわ』
「ん、その間少し出かけるな」
『はいはーいいってらー』
少し、おなかすいたからな
---
パキッ
ブチッ
ガリ…
おそらくこの姿を見られたならすぐ捨てられる
だから絶対に見られない時に食べるのだ
骨と顔は残したから、おそらくニュースで流れるのではないか
"人形死体再び"と
人形死体、その呼び方はいつ広まっただろう
どこかのネットで"マリオネットみたいだ"と
言われたことがきっかけらしい
その人形死体は顔面以外の肉が全て食われている
まぁ食うなら食べれるだけは食べてしまいたい
どうせ食べているのは何か悪いことをした人間だけだから、別にいいだろう
そろそろ時間も終わりだ
最後の一口
グチャと口の中に血の味と肉の味が広がる
人肉は好きではないが死なない為には食べないといけないのだ
「ごちそうさまでした」
ちゃんと手を合わせてお礼を言う
いきなり命を失ったのだ、哀れではないか
死体から離れて家へ帰る
慣れてきたこの事に少し恐れもできていた
---
『お、おっかー!』
「なんで起きてるんだ人間」
『え、あんた待ち〜』
「うん、わからない」
『はい、これ炭酸飲料ね?』
「?おう」
『これを〜振ります』
シャカシャカシャカシャカとずっと振っている
「何してんだ…?」
『そしてー…てい』
キャップをとって振る
もちろんその方向は自分だ
「え」
その瞬間液体が自分にかかった
「…何してんだよ」
『え、ふざけた』
「…早く拭くぞ」
『反応つまんな〜』
「はいはい」
拭くのに結構かかって寝たのは結局12時ほどだった
---
『おはよ〜』
「おはよ、朝ごはんこれな」
今日は休日だったから少し時間をかけてみた
ご飯と豆腐の味噌汁
刻んだたまねぎをいれた肉じゃが
そしてお茶
多分これだけ用意したのは初めてだと思っている
『おいし〜…』
「今日はどこいくんだ?」
『…ねぇ、あんたってさ、その頭のって隠せる?』
自分の頭にある変な耳は変化が可能だ
それを知ったのは食べている時だったのはいやだった
それにしてもなぜいきなり?
「?隠せるぞ」
『なら、隠して?遊ぶよ』
「…は?」
---
「…」
『ほら何してんのチケット取りに行くよ?』
「お、おう?」
連れてこられたのは小さなシアターだった
人間曰く数日前に亡くなった友人の父が経営していた映画館で、
今日閉館することになったのでその父の一番のお気に入りの映画を放映?するらしい
『あ、あんたってさ、映画見たことある?』
「ないぞ」
『ならこの映画が始めてかぁ』
『佐由!きてくれたんだ』
『あ、柚那!きたよ〜!』
『ありがとね!あ、もしかしてこの子が言ってた男の子?私は柚那、佐由の友達だよ、来てくれてありがとね』
「あ、あぁ」
ゆな、と名乗った人間は少し着飾っていた
少し光を反射してひかる黒布の上には灰色の小さなレースがついていた
『ほら、いくよもうすぐ始まるから』
『いってらっしゃい!』
人間に手を引かれて広い場所へ入る
少し古く見えるその場所は人間曰くあまり変わっていないらしい
『…やっぱりいないな』
そんな呟きが聞こえてすぐ目の前の画面が光り始めた
---
二時間後、画面が暗くなった
映像はあまりにも古く、おそらく普通の人がみたら駄作、と言われそうなほどで面白い訳でもなかった
でも、言葉はすごかった
『…全ての命に永遠はある』
自分の一番頭に残っていた言葉を人間がつぶやいた
ふと人間の方を見ると泣いていた
そんな泣くようなものでもないはずなのに泣いていた
『…大丈夫だよ?ただ、思い出しただけだから』
「おもいだした…?」
『柚那のお父さんね、すごい私世話になってたから、死んじゃったって分かった時、すごく悲しかった、でも、この映画ね、お父さんが小さい頃に作った映画なんだって』
「作った?」
『そう、友達とみんなで作ってここで公開してた、私もみたことあったから、だから思い出した』
「…そうか」
『さて、帰ろっか!』
「もういいのか」
『うん、ほら帰ろ?』
「…あぁ」
自分の手を引っ張る人間のさっき涙に彩られていた目元は少し赤く腫れていた
少しいつもと違う非日常、
そんな非日常が何回も続くのだと、思っていた
---
『てかさ、あんた名前なかったよね』
「?あぁ」
いきなり聞かれた事はもっていない名前のことだった
『…名前ないならさぁ、金由ってどう?』
「金由…?というかどうしたんだ?」
『いやー柚那にあんたの名前聞かれてさ、ないならつけよーって思ってさ、どう?』
「…いいが…どうしてその名前に?」
『?あんたの目の色、金色っぽいから、あと私の名前から!不満?』
「だから、別にいいさ」
それが簡単にすぎていった、初めてだった
---
その日は名をもらった日の数日後、
少し変だった自分も慣れ始めた頃で
どこで間違ったのだろう、そんな事はもうわからなかった
『ねぇ、今日柚那の家に泊まるけどあんたどうする?』
「へ、泊まり?」
『うん、どする?』
「どうするって…」
『ついてくるか家いるか』
「家いる」
『おっけー、いってくるね』
「あぁ、ちゃんと野菜食べろよ」
『うっ』
扉が閉じる
今日は食べる日のつもりだったからいいタイミングだった
でも食べるのは夜
それまでどうしようかと思って作り途中だったキーホルダーを手に取る
目の場所に綺麗な石が入った小さなぬいぐるみ
匿ってもらい始めた数日後に教えてもらった事を使って作ったもので、もうすぐで完成だった
「…やるか」
完成した時、もう窓の外は暗く
腹の虫は絶えずないていて
完成した小さな薄茶色のくまを置いて
外へ出る
外は月とほのかな光だけがこちらを見て
人はいなかった
だから大丈夫、そうおもったのが
まちがい、だった?
小さな音で目が覚めた
集中していたのか目を覚ましたのは路地裏の奥で
夢中でにくをたべていた
その音はまるで意図せずなったようで
聞き覚えがある高い声が聞こえた
『…金由…?』
後ろを見たくなかった
どんな顔をしているか、想像できてしまったから
『あ、んた何して』
「…っくるな!」
無意識に出ていた声は思ったより大きくて
後ずさる音と
靴にぶつかって転がる砂利の音がした
『…人形死体、…?』
「…人間…こ、れは」
弁明しようとした時
人間の横から、光が当たった
その光は知っている、人工的な、光
「佐由!」
手が無意識に伸びた
人間は驚きと喜びが混じったような顔をして光にのまれた
『…__』
光にのまれる直前
何かを呟いていた気がした
---
その光にのまれた人間は今、
白いベットの上で目を閉じている
今日は花を届けにきた、おみまい、という行為には花がいいと聞いたから
お店の人間にきいて、おすすめをもらった
おすすめの他にお気に入りだった花をいれて水をかけ花瓶を彩った
「…おきろ、人間、今日のご飯はカレーだぞ」
そんなことを話しても聞こえるはずがないのに
お見舞いの時間がもうすぐ終わる為
出る前にふと顔を見た
その時、きらきらとした雫が見えた
「…人間?」
その閉じた瞼の下には透明な雫がおちていた
「人間!」
『ん……あは、おはよー…きゆ』
雫がおちた瞼が開いた
久しぶりの声が聞こえた
少しの間があって花瓶の水が落ちる音がした
「…おはよう、人間」
『違うよ、金由、私は人間じゃなくて?』
「…何回言うんだ?佐由」
『せーかい、今何日?』
「7月21日…あの日から、1ヶ月後だ」
『そんな寝てたんだ私、ん?あ、この花、金由が持ってきたの?きれーじゃん!あ、これスミレ?水やりちゃんとしてある〜!』
そんな呑気に話して、久しぶりを祝う
「…これ、使え」
『ん?あぁまだ泣いてたんだ、ありがと』
「なぁ、佐由、お前…どうするんだ」
『どうするって?』
「人形死体、自分が犯人だってこと」
静寂が流れ外の風の音と中の滴る水の音がだけが聞こえた
『何いまさら言ってるの?』
「は?」
『そんなの最初から知ってたよ、まぁ、普通は言わないとだけどねぇ警察とかにさ、でも、まぁいっかな!って』
呆気にとられた自分をおいて佐由は話を続けた
『いやーまっさか保護した日に家を飛び出したかと思えば人を食べてるとか思わなかったし?』
「まてまてまてまて!いつだって?」
『保護した日!』
…まさかの最初からバレてたとか思わないだろ
『まぁ、そんな事はいいとして、あんたはどうするつもり?今後さ』
「今後?」
『そう!今まで通り、過ごしたい?』
「…今まで通り」
『うん、今まで通り、
私と同じ屋根の下、家事して、出かけて、
私の愚痴に付き合って!
今までと同じように日々を過ごす、
この事は私達だけの秘密、
そのかわりバレちゃったら潔く捕まりなよ?
私も、一緒にいてあげる、どう?』
「は、そんなの、お前がどうなるか!」
『これは私の意志、
別にいいでしょう?
この命は私の命!
つまりあんたの、
金由の最後にまでついていくのも私の意思だよ、金由、ねぇ、どうする?』
「…もし、今まで通りを選ばなかったら…?」
『私と金由の共犯だって警察に言う!』
佐由の顔は少し楽しそうだった
あぁそうだろう、わかっているさ、
こいつには勝てないよ
「…わかったよ、なら、隠す、今まで通り、これは、自分の意思だ、いいだろう?」
少し口角が上がる感じがしながらそう伝える
佐由は未だ止まっていなかった涙をハンカチで止めながら嬉しそうに
『いいよ、それが金由の選択なら』
佐由がハンカチを隣において体をおこす
まだ涙は止まらず頬を濡らしていて
外からの光できらきらと輝いていた
そして自分の口へ指を乗せた
『じゃあ、これは全て、2人だけの秘密、ね?』
その時の顔は今まで見た中で、一番綺麗で、1番期待を込めた表情で、自分は、ただそれに笑顔で、返していた