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甘く切ない、冬のお話。
メンバー全員で、読み切り小説をそれぞれ書いてみました!
これは星屑のお話。
私は|風結蜜柑《ふゆみみかん》。
なんでこんな名前にしたのか、両親に問いたいと思うほど、この名前が苦手だった。
いや、苦手なんて通り越して嫌いだったかもしれない。
でも、そんな私のコンプレックスを変えてくれた人が居た。
それは、ある冬の日。
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「さ…寒っ……」
極寒、と呼んでしまいたくなるような日。
これだから冬は嫌いである。
そもそも冬が好きな人なんて居るんだろうか?
と思いながら学校へ向かう。
「おっはよーー、蜜柑。」
「ふ、|冬里《ふゆり》……朝から元気だね…」
「どうした、死んだ魚みたいな目して。そんな寒いか?」
「寒いわ!あんたみたいな野生児にはわかんないのよ‥この寒さが……」
「ふーん?まぁいいや、おっさきー」
そう言って冬里は駆け出していった。
まったく、なんであんなに元気なのかしら‥……
そう思いつつ、私も教室へ到着した。
別に、今の冬里に恋愛感情なんて持ったことはない。
多分これからも持たない。
あんなふざけたやつに持つことは無いと思う。
そうやってぼーっとしていた授業は、なんだか早く終わってしまって。
授業中、何気なーく冬里の方を向く。
あ、消しゴムで遊んでる……
いつまで経っても子供だなーー。
そう思った時だった。
冬里が不意に、顔を朱に染めた。
え。
あいつ好きな人とか居るんだー。
えっと、視線の先は……
|臼井春香《うすいはるか》。
このクラスの可愛い担当。
やっぱり男子は、あーいうのが好きなのか。
ザ☆陰キャの私には縁もゆかりも無い人である。
ほーん、とやけにおっさんらしい声を出しながら授業を終えた。
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まったく、こんな寒い中外に出ていける男子の脳内の仕組みが知りたい。
放課後になった瞬間、男子は校庭へと駆け出していった。
冬里もその中に混じっている。
何気なーく、本当に偶然そちらを向いた瞬間。
冬里が、とても綺麗な笑顔でボールを追いかけていた。
その横顔だけで、私は恋をしてしまったのである。
まったく、自分でも本当に単純な性格してるなと思った。
でも、止められないのだ。
この感情を。
私と冬里は家が近い。
だから何もしなくても、一緒に帰ろうということになった。
その日は、すこしネガティブになっていて名前のことを愚痴ってしまった。
雪が降ってて、自分の名前のことを思い出したから。
「なんで私ってこんな名前なんだろうね。『蜜柑』とかキラキラしすぎじゃない?」
「え……」
「別にそんなことないと思うけど。蜜柑は蜜柑じゃん。名前なんて関係ないよ。」
「名は体を表すって言うじゃん?」
びっくりした。
まさかこの名前を、そんな風に思ってくれる人が居るなんて。
だから調子に乗った。
だから。
「ねぇ、冬理……」
「ん?何?」
聞いちゃ駄目だ。
分かっていても、私の口から言葉が溢れる。
「冬里の好きな人って、春香?」
嫌だ
聞きたくない
壊したくない
冬里の口が開く。
『そう。』
ああ。
私の初恋は、些細なことで始まって些細なことで終わるのか。
「誰にも言うなよ?」
とかなんとか言ってるけど、私の耳には入らなかった。
「うん……じゃあばいばい。」
「?…‥ああ。」
「っ!」
家に入って、バタンと勢いよく部屋のドアを閉める。
そこで私は泣き叫んだ。
泣きつかれて、でもまた泣いた。
明日は目が腫れていることだろう。
どうせなら学校、行かなくてもいいか。
感情が抜け落ちた人形みたいに考える。
1つだけ、わかったことがある。
--- 私の初恋は、雪と一緒に溶けたんだ、ということ。 ---
だから冬は嫌いです。
あの苦く切ない初恋を、思い出してしまうから。
1596文字!
どうでしたか?