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滅んだ世界、二人だけの会話
SCP財団での二次創作。生きる。さんの自主企画に参加する作品です。
注意
.お互い話せてますが、ブライドはバリバリのアメリカ出身です。なぜ話せてるかとかは、零君がたくさん旅に行ったからとかにしといてください。
.しちお。は、最近本部を見始めました。そのため、キャラを知っている人は
えっ、ブライドってこんな奴だっけ?
となる可能性があります。ご了承ください。
〈これ見たほうあとのほうがわかりやすいよ〉
ジャックブライド博士の人事ファイル
http://scp-jp.wikidot.com/dr-bright-s-personnel-file/2013
SCP963(首飾り)
http://scp-jp.wikidot.com/scp-963/2013
一応クレフ博士の人事ファイル
http://scp-jp.wikidot.com/drclef-member-page/2013
○月○日
世界が滅んで■■年は経つ。
おそらくビルだったものは、ほとんど崩れており、緑に染まっている。いや、もはやこの地球全体が緑に染まっているだろう。
いま地球は、本来の姿を取り戻している。その姿を見れるのは私だけだ。そして、こうして書いている日記を読むのも私だけ。あぁ、アルト、コンドラキ。財団の、あのクソ野郎たち…
なぜあのとき、私は■■■■
○月○日
何年ぶりだろうか…人を見た。話すのは久しぶりだったが、独り言をぶつぶついってきたせいで声帯に問題はなかった。悲しいのか、良かったのか…
それで、彼の名前だ。彼の名は、あー、確か
レイ、といった。
もうすぐ崩れそうな建物の中。錆びついて今にもぶっ壊れそうな椅子に"そいつ"は座っていた。
「いやぁ、人と話すのは久しぶりでね。少し動揺してしまった。」
「?…あぁ」
俺はまだ、頭が回りきってなかった。
世界線を移動した先は、自然に囲まれた森だった。いくら歩いても人には会えず彷徨っていて、ようやく彼にあったのだ。
「…色々聞きたいことがあるがー、あー、まだ頭が回り切ってねーんだ…まず、アンタは?アンタは誰なんだ」
「私かい?」
目の前にいる彼はそう答えると、足を組み直し、眼鏡をかけ直した。
「私は、私はジャック。ジャック ブライト。好きに呼び給え。それにしても人が居るなんて…」
彼は感心したようにつぶやく。
「わかった、ジャック。おれは零だ。難しい話をするが…訳あって、死ぬ方法を探すため、世界線を移動して旅をしている。」
ジャックは目を見開いた。
「ほう、それは面白い」
彼の反応は自分が思ったよりも薄かった。
そして更に予想しなかった事を言った。
「君も、死ねないのかい?」
「…は、」
喉から声が漏れ出す。たしかに自分は世界自体を移動してるんだ。おんなじもの同士がいても不思議ではない。
ジャックは話し続ける。
「君の話から見て…君はおそらく物理的手段では死ねない、ということかな?どんな攻撃にも耐えてしまう…いわゆる不死身。」
ジャックの予想は、少しも間違えなかった。
「…そうだが。」
「そうか…奇遇だね。私も実は君と同じような…そう、不死身だ。ただ、君とは少し違う。」
「違う、とは…」
「私の首にかかっているこの首飾り。これが私の人格、記憶だ。」
「…?」
首飾りが…彼の記憶?
「いやぁー、これが厄介なSCPでね。まぁ簡単に言うと…私は本来、すでに死んでいてね。だがこの首飾りの力のせいで、私の人格が近くにいた職員に移ったんだよ。」
「SCP…」
風のうわさで聞いたことがあった。
自然法則に反した存在や現象などを取り扱う組織、SCP財団。
「まぁ、お互い同じようなもんだ。仲良くしよう、零。」
彼は笑みを浮かべてこちらに手を差し伸べる。考えてたことが、何故か全部吹っ飛んだ。静かに彼の手を握る。
「…あぁ。よろしく、ジャック。」
「…不死身でも殺せるSCP…ねぇ。」
ジャックは顎に手を当て、小さく呟く。
「…あるのか!?」
俺はガタッとボロクソのイスから立ち上がった。
少しの期待が膨らむ。
「残念ながら、世界が崩壊したときと同時に、私以外の全ての生物は死滅してしまった。SCPも同様にね。」
「…」
どうやら期待したのが馬鹿だったようだ。
確かに彼に出会うまで、誰にもあってないのだ。あんな無法地帯なら、SCPの一つ二つに会って死んでいてもおかしくない。
「まぁ君のことは残念だが……今日中は君の能力やらも使えないんだろう?」
「…そうだ。」
彼は俺の言葉を聞いてにこっと笑みを作る。
「少しついてきてくれないか。」
壊れた建物や、森の中を歩いて少し。たどり着いた場所にあったのは、広い丘と
Clef、とだけ刻まれていた石。
「ジャック。これはー」
「これはね、」
ジャックは石を見つめたまま言う。
「これはさ、墓だよ。私の同僚の、」
そう答えた彼は、目を細めて笑う。
…墓、か。
その言葉は、口には出なかった。あまりにも突然発せられたもので。
「あの日、本当に一瞬だったんだ。何かが目の前を通り過ぎた。…それはきっとみんなが察した。でも、察しただけじゃ駄目だったんだ。…はは、気づいたらみんな、血みどろの死体だよ。」
そう話し終えたとき、ジャックの笑みはすっかり消えてなくなっていた。
「せめて、仲良くしてたやつぐらいの墓は用意しないとな。」
彼は俺に言った…いや、もしかしたら、彼にとってはもう独り言かもしれない。
俺は、何も言えなかった。何も言えずに立ち尽くしていた。
「少し聞いてもいいかい?」
少し時間が過ぎたあと、彼は俺にすっと目線を合わせて言った。
生暖かい風が、俺たちの間を通っていく。
「君にとって、“死”とはなんだい?」
「死…?」
「あぁ、死、だ。」
俺は3秒ばかり考える。
「ー開放。」
「ほう、開放か。」
「みんな死んでいくんだ。友達も、家族も。みんな俺をおいていく。」
ジャックは静かにうなずく。
なんでだ、なんでこいつに、こんなことを。
「だかっ、だから、せめてっ、俺はアイツラのことぐらい、覚えておきたかった。でも、今はどんな顔をしていたかも思い出せない、思い出せなくてっ」
全部一気に吐き出した。息が荒く、ぜーぜー、はーはーと乱れた呼吸をしていた。
「そうかい…面白い発想だ。」
ジャックはそういうと、目の前にある墓石を撫でた。
「じゃあ次は私かね。」
彼は撫でた手を腰に当てる。
「私はね…死はなにもない、無だと思っている。」
死は無…彼はそういった。
「世界が滅ぶ前にも、私の同僚はすでにたくさん死んでいる。まぁ、そういう職場だったからね。慣れてしまった、のか。誰が死んでも、換えがいる。職務に死は全く問題ないことなんだ。…あの財団は、そういうところだった。
それに、私はすでに何百回とも死んでいる。死に対して、そこまで何も思えない、思えなくなったんだろうね。」
ジャックは言った。そう言った。
俺には考えられなかったんだ。死に対してそんな軽々しい意見を出すなんて。
「軽々しい、そう思ってもらっても結構。所詮人の意見だからね。」
ジャックはははっと笑う。
「私だって死にたかったんだ…。君と違って、この体は老化で死ぬからね。そのままほっといとけば、楽に死ねるんだ。」
「じゃあ、なんで今生きてるんだ?」
俺はそうジャックに問うた。
ジャックは目を伏せる。
「…怖かったんだ。馬鹿だよな。もう何回とも死んできてるのに。自分が、この場から本当にいなくなってしまう、と思ったら。なぜか、背中の震えがとまんなくなってしまっね。
だから、何故か生き残ってた職員をつかって、私は生き延びたんだ。彼らを騙して、私は、」
ジャックの目からは涙が溢れていた。それをこらえようとしたのか、下唇を噛んでいた。
「私は、馬鹿なやつだよ。アルトやコンドラキに、猿やら馬鹿やら言われてきたけど、大当たりだったね。」
「…」
ジャックは、世界が終わってる、この絶望的な状況の中、ずっと明るかった。
…ずっと、明るく振る舞ってたのか。
彼は…これから救われるのだろうか。
「久しぶりに話せて楽しかったよ。」
ジャックは笑顔でそういった。
「…俺も、ジャックと話せてよかった。」
次の世界に行くため、俺はおそらくここでは最後であろう会話をする。
「零。君が、楽に死ねることを願う。」
「あぁ、ジャック。君も。」
彼が、救われることを願って。
レイは面白いやつだった。私と同じ。似た者同士で。
さぁ、私も逝かなければ。
この日記がもう、誰にも見られないことを願う。
ージャック.ブライド
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