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第6話:隠れられない恋心
昨夜の失態――いえ、私の「本性」を直哉様に晒してしまってからというもの。
私は、いつものように「認識阻害」の術式を使って直哉様を驚かせることができなくなっていた。
(……だって、姿を消しても、昨日のような破廉恥な私を思い出されたら……!)
廊下の角で、術式を使わずにこっそり直哉様の様子を伺っていると、背後から不意に低い声が降ってきた。
「……自分、何しとんねん。今日は消えへんのか?」
「ひゃっ!? ……な、直哉様……!」
振り返ると、そこには腕を組んで、意地悪そうに口角を上げた直哉様が立っていた。
いつもなら私が驚かせる側なのに、今日は完全に立場が逆だ。
「……なんや、顔真っ赤やぞ。また酒でも飲んだんか?」
「ち、違います! ……昨日のことを思い出したら、その、術式に集中できなくて……」
私が俯いてモジモジしていると、直哉様は「フン」と鼻を鳴らして一歩近づいてきた。
逃げようとした私の肩を、大きな手ががっしりと捕まえる。
「……逃げんな。自分、昨日あんなに俺にべったりやったくせに、素面やと借りてきた猫みたいやな。……可愛いないわ」
「……可愛くない、ですか」
少しショックで顔を上げると、直哉様の顔が至近距離にあった。
黄金色の瞳が、真っ直ぐに私を射抜く。
「……嘘や。……素直やない自分も、昨日みたいに蕩けとる自分も、どっちも俺のもんや。……覚えとけ」
そう言って、直哉様は私の額に、まるで「印」をつけるように指先をコツンと当てた。
その仕草は乱暴だけれど、触れる指は驚くほど優しい。
「……あ、あの、直哉様……。……大好き、です」
私が勇気を振り絞って伝えると、今度は直哉様が「……っ、急に何言うとんねん!」と顔を真っ赤にして視線を逸らした。
その様子を、物陰から掃除用具を手にした使用人たちが「ふふっ」と微笑みながら見守っている。
「あらあら、直哉様。……紬様を独り占めして、お仕事はよろしいのですか?」
「……うるさいわ! 今はこいつの教育中や! どっか行け!」
直哉様は使用人たちを怒鳴り散らしながらも、私の手を決して離そうとはしなかった。
昨日までの「傲慢な婚約者」はどこへやら。
今の直哉様は、まるで宝物を手に入れた子供のように、私の側に居ることを隠そうともしなかった。
(……直哉様。……パパバカになる日は、そう遠くないかもしれませんね)
繋がれた手の熱を感じながら、私は幸せな予感に胸を膨らませた。
🔚