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罪機
目まぐるしく移り変わる景色に酔って倒れた。
見上げた空には黒い点々がまぶされていたが、それが虫だとわかったのは息が整い始めたときだった。
汗が額から背中から脇から全身から吹き出している。心底気持ちが悪い。
頭を揺り動かしてみても、頭を擦り付けた砂の音と虫の鳴き声が聞こえるのみ。もう、何も考えたくもない。
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遠くの方から車の音が聞こえてくる。いっそのこと自分を轢き殺して走り去ってくれないだろうか。
そんな願いも虚しく、車は僕を避けて静かに通り過ぎていった。薄情者め。
そのとき、つい先ほどのことが脳裏に蘇ってきた。
「君ってさ、オワコンだよね。」
オワコン=終わったコンテンツ=時代に合わなくなった自分。
脳内で処理するのに思ったよりも時間がかかった。
うん。そうだよな。僕はオワコンだ。
わかっている。わかっていたはずだった。
何度も心の中で自問自答してきた。言い聞かせてきた。他人に言われたら傷つくことがわかっているから、だから、自分で言い続けてきた。
でも、人から言われるのとでは、全く別の話だった。
オワコンという言葉が何度も脳内で反芻される。もうバラバラのグチャグチャで原型もとどめていないのに、残り香だけは確実に僕の脳内を侵食し続けていた。
気がついたら僕は胃中のものを全て土の上に吐き出していた。喉が焼けるように熱い。
だけど、もっと吐き出せ。吐き出せ。そして空っぽになれ。
もう僕に価値はない。待ち人もいない。幸はない。
いいよ、吐き出せよ。これでやっと楽になれる。
仰向けに倒れてまた空と対面する。
黒くまぶされた羽虫は今もまだ頭上を飛び交っている。
僕は近場の石を投げてそいつらを散り散りにした。なのに、また|集《たか》ってくる。…うんざりだな。
楽になれるかと思った。だけど今もまだ腹の奥がムカムカしている。
どうしたらこの感情を整理できる?どうしたらこの惨状を受け入れられる?
努力は決して裏切らないと誰かが言った。
だから自分の目指す場所に向かって日々を積み上げてきた。
なのに結果はなんだ。突如として現れた大きな子どもに蹴飛ばされて崩壊させられた。完全に水泡に帰した。
積み上げてきた努力を、「オワコン」と名付けて|蹂躙《じゅうりん》した。僕はただ顔色を窺うように笑うことしかできなかった。自分でもわかっていたから。これ以上この努力を続けても、やがて必要なくなることを。
虫はまだ飛んでいる。飽きない様子でブンブン飛んでいる。
目障りなんだよ。また石を投げる構えをとった。しかし、やめた。馬鹿らしい。
人生の杖を失ったら、一体何を手掛かりに起き上がればいいんだろう。
空っぽの手のひらを天に預けて、空虚な|空《くう》を掴んだ。
だらりとまた同じところに腕が戻る。いい加減、どこかへ行ってくれ。
虫は頭上で集るのをやめて、いつしか別の場所へと塊になって飛んでいった。
僕は寝転がりながら、その様子を見送った。あれは、道標になるだろうか。
吐いた息が色もなく空に消えていく。