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文芸の才
彼は才能があった。
小説や詩、はたまた映画の脚本まで。その才は留まることを知らなかった。
私の勧めで始めた執筆活動も、始めたては隣に居たはずなのに、いつの間にか遠い雲の向こう側へ行っていた。
彼に筆を握らせれば「1000年先まで忘れられることのない、絶世の作品を作る」、と言われていた。
彼は褒められると、困ったような顔をしていつもこう言う。
「そんなことないですよ、偶然です」と。
私の勧めで彼の小説をコンクールに出した。
彼は満場一致で最優秀賞を受賞した。
しかし、私はどうだ?
彼の名が載っているその場所に、私の名前は無かった。
彼よりも、私の小説の方がよりリアルに、シンプルに書けているはずだ。彼の小説は目新しいだけだ。
彼が褒め称えられる度、私は心臓を握り潰されるような、そんな感覚がしていた。
彼を真似て小説を書いてみるが、鳴かず飛ばずで結局辞めてしまった。
彼を真似て脚本を作ってみるが、制作会社の目の前で門前払いを食らった。
そんな私に同情をして、彼はこういう。
「大丈夫だよ、皆君に気付いてないだけ。もう少し経てば売れてくよ!」
なんとも的外れな慰めだ。
私は売れたい訳ではない。彼よりも優れていると、証明したかっただけなのに。
私よりも優れている彼が、心底憎たらしい。
彼なんて、本来なら私の眼中にすらないはずだ。
今、"俺"は彼の真後ろに立っている。今なら気づかれずにやれるだろう。
キッチンから持ってきたナイフを大きく振り翳し
どんっ!と鈍い音が響く。
ナイフは日記に突き刺さっていた。
「ん?どうかした?」
彼は小説を読む手を止め、振り返る。
彼と俺の目が合う。
「いや、なんでもないさ」
にこりと本心からの笑みを浮かべる。
そして、あの時書き殴った醜い感情を全てまとめて
ゴミ箱へと投げ捨てた。