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呼び捨て
エースにとっての悲劇は、食堂でとうとつに起こった。
「なあ、マレウスは──」
マレウスを呼び捨て。失態に気づいたエースの口は、言葉の途中で閉じられた。
マレウスとデュースは驚いて、大きく開いた目でエースを見た。
あのドラコニアに失礼な口を聞かないように、と願っていた周囲の者たちもエースを凝視した。
エースたちを中心に静まる一画。幸運にも遠くにいて聞こえないでいた者たちの喧騒が、いつもより遠くに感じる。
「すんません」
先に口を開いたのはエースだった。
恐々と観察する周囲をよそに、マレウスは目を細めて「ふっ」と笑う。
「構わない。むしろもっと、そう呼んでほしい。二人だけのひみつもいいが、そろそろ認知されたかったからな」
「にんち?」
何も察せないデュースの疑問。やめろ聞くなと無言で訴える周囲。願いもむなしく、マレウスは機嫌よく答える。
「僕とエースは、恋人同士だ」
名前呼びされたエースは叫ぶ。
「ちょっとは誤魔化そうと思わないの!?」
とうとう周囲に認知されてしまったエースは、真っ赤な顔を手で覆った。
ホットニュースはたった数十分で学園中に広まった。