公開中
死神と悪夢 7話
『西尾家』
そう書かれたプレートがかかったドアを開けた。
「…今帰りました…」
声が沈みまくっているのは自分でも分かる。今まであの能力を使うたびに、散々な目に合ってきたからな…いやまぁ先輩に嫌われたくないとかあるけどさぁ、同居してるし。怒られた後に顔合わせるの気まずいし。
「おぉ、お帰りー」
…あれ、こんな声のやつ家にいたっけな。いや、居たんだろうけど、記憶がない、ということは、そこまで意識してなかったのだろうか。
すると、奥の部屋から、ヒョコっと黒い頭が覗いた。
「西宮くん」
柔らかい声が耳に入る。
「っあ、はい」
急いで返事をした。
「…おかしいな、いつもの西宮くんなら、冗談とみせかけた皮肉と罵倒を一つ言うのに」
「あぁ、えぇーと、はい」
俺のおろつかない返事に、彼は何かを察したようだ。先程より低くなった声で彼は言う。
「…使った?」
あぁ、コレを知っているということは、自分より先輩なんだろう。簡単に言うと、終わった。
「あ〜〜〜〜〜〜っすねぇ」
俺が言い訳を考えているうちに、彼は俺に抱きついてきた。
「そんな頻繁に使ってはダメって言ったじゃんか!西宮くん、いっつも使ったあとは俺のこと忘れるんだからさぁー本当になんで⁉」
待て、テンションが違いすぎる。俺にとっては初対面なんだぞ…。
彼が顔を上げる。
「あぁ、名前がまだだったね。俺は荒川楓。西尾くんと同僚。ほら、あそこの部屋で色々やってた、覚えてない?」
俺が首を横に2回振ると、勘弁したように荒川でいいよ、と荒川さんは笑顔で付け加える。吸い込まれそうな黒の、襟足が長い髪型。そばかすが子供っぽさを出している
荒川さんをいそいそと剥がし、靴を脱いで部屋へ歩いていく。その時、自分がとてつもなく疲れていることに気づいた。足がなかなか上がらない。自室に入ったときには疲労が限界に達し、そのままベットに崩れ落ちてしまった。だが、眠りにつくことはできず、その場でグッタリとしている。目を少し開け、あたりを見回した。ベッドとタンス、少しの本と机、殆どものがないこの無機質な空間に、少し安直する。
「西宮くん、開けるよー」
軽々しい声が、部屋にこもって聞こえた、と思うと、ドアが静かに開く。人影が2つ入ってきた。
「うぅ…先輩、と…」
「荒川だよ、忘れないで」
「荒…川、さん」
かすれた声をなんとか絞り出す。
「あらあら、カーテン開けなよ昼なんだから。」
先輩がシャっとカーテンを開ける。刺す様な日差しが体を当てた。
「ほら、コートも脱いで」
先輩がコートをせかしく脱がそうとしてくる。
「先輩…そんな急がなくても脱ぎますよ…」
「そうだよ西尾、そんな親じゃないんだから」
荒川さんが先輩の腕をぐいっと引っ張る。
「フフ、俺にとっては夜雨は子供同然なんだよなぁ、ついつい色々言っちゃう」
「彼女いないくせにぃ」
「やめろよぉ」
目の前でいじり合いされても困るんだよなぁ…。
いじり合いでにやにやしていた先輩が、俺の姿を確認するようにみた。
「荒川から話は聞いたよ」
あぁ、やっぱり…。
「嘘だと…言ったら?」
「荒川の能力を話したら、そんなこと言えなくなるだろうね」
先輩の言葉に、荒川さんがふん、と自慢気に鼻を鳴らす。
荒川さん…どんな能力なんだろか。見た感じ、戦闘枠じゃないのはわかるんだけど…ヒョロいし。
先輩はニヤニヤを超えて…にんまり、にっこりしていた。先輩が嫌なことを考えている証拠だ。
「夜、雨?」
「あ…はい…」
うわ…終わった…なんか、本能的にそんな感じだ…。
「俺と約束したよね?能力は使うなって」
「…はい」
「約束を破ったときのことも、決めたよね?」
「は…え?」
まてまて、それは記憶にないぞ。先輩のことだから勝手に付け加えてるだけかもしれないけど。
先輩がいきなり俺の腕を引っ張った。
「ということで、夜雨は罰として〜?」
「夜雨くーん、晩飯できたぁ?俺もう腹ペッコペコだからさぁ」
…なんで、こんな事になった。ただでさえ家事は当番制なのにほとんど俺に押し付けるくせに。家事は全部やれ、だとか。いや、罰だけど。俺に改心してほしい、とか、絶対そんなんじゃないだろ、これ。ただたんに自分たちが楽したいだけだろ。
「夜雨〜、今日のメニューは?」
先輩たちの陽気な声が聞こえてくる。
「お好み焼きです…材料なさすぎなんですよ。」
へへ、と、昨日買い物当番だったはずの先輩が笑う。本当に他人事すぎるんだよ。
プレートで焼いていた生地を、頃合いを見計らってひっくり返すと、いつの間にか横にいた荒川さんが「おー」と歓声を上げた。
「荒川さんも、先輩も、待ってないで手伝ってください」
「それじゃ今夜雨がやってることに意味がなくなるじゃないか」
「やっぱ楽したいだk」
ギィィィ
嫌な音が鳴った。びっくりして、どこから出たか探ってみると、この家に強盗が入るぐらい珍しく、リビング(と言えないまでに狭いが)にあるドアが開いていた。荒川さんが嬉しそうに口を開く。
「青葉、珍しいね、自分からこっちに来るなんて。」
「ひえぇ…眩しい…えと、流石にお腹ペコペコですぅ…」
ドアからのそのそと一人の女性が体を覗かせた。
「あっあ、そのぉ、お好み焼き…夜雨さん、が、作ったん、ですか?」
「うん…そうだけど、食う?」
うまく作れたお好み焼きを、皿の上に乗せる。
「はい…」
青葉は、ひょろひょろとリビングに入っていく。リビングが、騒がしく見えてきた。
…先輩が楽してるのは…まぁ、今じゃなくて、いいか。
「青葉が部屋から出るなんて何日ぶりだろうね」
先輩が冗談っぽく笑う。
青葉は、数少ない俺の同僚の一人だ。極度じゃ言い表せないぐらいの引っ込み思案で、ほとんど部屋から出なかったりする。
熱い、と小声でつぶやきながら、ホクホクとお好み焼きを食べる青葉を見る。
案外お叱りが軽めに終わったことに感謝して、今、平和だな、なんて思った。
きゃらいっぱいふえた💮
誤字脱字があったらお知らせください。