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悲喜交々
こんぐらいが読みやすいね
浅野 音:人一倍感情や欲に敏感。かなりのお人よし。
付喪 善 :世を渡る付喪神。団子が大好き。
くすん、くすんと鼻をすする音が聞こえる。音はざわつく心を抑えながら、そろりと部屋をのぞいた。
案の定、だ。つくもがくるりとまるまって、小さく泣いている。やはり気の毒に思えて、そっと近づく。あと30cm、そんなところでつくもは気づいたようで、目を腫らしながら音を見た。
ぽんぽんといつもするように頭をなでると、耳がぱたりと上がる。慎重にベットに上がって、ゆっくり隣に座ると、しっかりと顔が見えた。
「どうしたの」
短く、そっけない一言。心には敏感でも、言葉にするのは難しかった。
「なんでもない」
切り捨てるような冷たい答えに、音はなんとなく事情を察した。つくもの手元の古びた扇子が教えてくれる。
以前聞いた話だと、扇子は大事なものらしい。一番最初、幼いつくもをよおくかわいがってくれた人がいたそうだ。名前は「文吉」というそうで、300年も前の大昔の話。そんな話を音はぼうっと思い出した。
そんな前の扇子が残っているのは驚きだが、それほどつくもが大事にしていることになる。
それほど思いが強いということになる。
「つくもが泣くと文吉さんもかなしいよ、きっと」
「あなたになにが__。」
そういいかけて、つくもは言葉を飲み込んだ。そうかもしれない、心のどこかでそうおもったのだ。
「僕も悲しい、つくもがなくとね」
そう音は付け足すと、もたげた首をつくもが上げた。目元を濡らしているのはきっと涙だ。
「ほんと?」
「泣くより笑うがいいでしょ、つらいことより幸せがすきでしょ」
目線を下げて、青い眼がこちらを見つめてくる。しおれた花がぱぁっと咲いて、瞳が揺らいだ。
ぽふりと体を預けてくるつくもを撫でてやると、つくもが体を回して見上げてくる。目を細める音をみてつくもは、
どこか文吉に似ているところを探そうとした。浅葱色の目、ふわりとした茶髪。骨ばった手に、どこか優しい目。
目に焼き付けるように、じいっと見つめると、目を離さず見つめ返してくる。
釘付けになってしまったかのようにふたりが固まっているとどちらかともなく笑いだして、ぴり、と張りつめた空気がほだされる。
「お団子一緒に食べよ」
「いつもはダメっていうのに」
「今日は特別、誰かさんに泣いてもらっちゃ困るし」
いたずらに笑う音の顔を、もう一度体を起こして見つめると、するりと手が伸びてくる。音はそれから、つくもの腫れぼったい、桃色の頬を撫ぜた。