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環 and 響
「ああ、蓋が開いた、開いた……ほぉら、開いたぞ。我は子らと一緒とは身体を走る虫唾にすら失礼だ」
長身痩躯で、無造作に伸びた黒髪と、鋭く光る瞳を持った瞳が深い黒水の中で爛々と光り、肌は浅黒く、顔と胸元に赤褐色の染料で施された幾何学的な文様や、土偶に似せた傷跡が刻まれた手で私の肩を掴んだ。彼の服装は、粗い麻布を巻き付けたような古風な装束を身につけ、常に腰に土偶の破片を象ったお守りを下げている、といった縄文時代とやらを想起させている。
「“開いた”?こじ開けたんでしょう、その腕で……まだあの方は眠っていますよ、それはもうぐっすり、ぐっす〜りと……」
「寝る子は育つ、そう小耳に挟んだことがある……成長するのだろう?ああ、なんと素晴らしき!素晴らしき母なる地の理!」
“チカゼ”。そう掌のくしゃくしゃの名札に書かれていた名前の彼が、地に膝をつきそうな勢いで、ばんっと地に手を押しつけて砂埃が舞う。
私は黒染めの衣の裾で口元を覆い、薄汚れが更に目立つことがないように身体を“初めて”動かす。私の長髪は手入れされず、ぼさぼさだが、表情は常に穏やかで、特筆すべきはその目であり、一切の感情の起伏を感じさせない、深い闇を湛えた瞳をしている。痩身で背が高く、その存在自体が周囲から浮いているが、普段は背を丸めていることが多いのだ。しかしながら、近くにこんな“時代が《《いと》》遅れている思考”で、古くを極端に解釈し、理解不能な行動原理を持つ狂人などがいたことが、《《いむじ》》恐ろしい。《《あな》》……ああ、なんと、布団が吹っ飛んだような衝撃であることか。笑いが堪えきれぬ美も、止まることはない。
「して、“|箔《はく》|千利《せんのり》”。この影ばかりの街は民の幸せを願うのか」
「……『民の幸せを願う』……?しあわせ……四合わせ……『幸せが、四つ合わさって、死死合わせ』!アッハッハッハ!貴方、今、最高に面白いことを言いましたね!?その真面目な顔で!死を合わせると!傑作だ、今日一番の爆笑ものですよ!」
「……ああ、笑えば聴こえるぞ。地の底、水脈を伝う震えが、其方の笑音を謳っている。我の石斧が其方の笑いを砕き、其方は豊かな土へと還るのだ。これこそが、至高の『巡り』よ」
「……砕く!砕くですって!アハハ、なんと猛々しい響き!貴方が石を振り上げるたびに、私の背筋に意思なる石が走りますよ!その無愛想な石の塊で、私のこの滑稽な命を粉砕するというのですか? 究極の打ち切りというオチではありませんか!」
私は恍惚とした表情で身をよじり、墨染めの衣をはためかせながら、震える手で鉄扇を広げる。彼のその瞳には喜びも恐怖もなく、ただ底知れぬ闇だけが広がった私が映っている。もはや、街などどうでもいいのだ。
「良いですよ、チカゼ殿……!貴方のその『土へと還す』という真面目な使命感!泥臭くて、救いようがなくて、最高にドロ泥マチックだ!さあ、その石斧で私の喉を突いてごらんなさい。最期に私がどんな絶唱、ギャグを吐くか、試してみたくはありませんか?!」
「……其方の口から溢れるのは、風に消える無益な音のみ。だが、その狂った音もまた、土に染みれば静寂へと還る。其方は『オチ』と言うが、我が見るのは『巡り』だ。其方の肉が砕け、血が土の渇きを癒やす……それは笑い事ではなく、ただの『理』よ」
瓶中の中で、濡れた身体が真っ青な空へ投げ出され、大きな館の前に立っているのは、妖のように奇妙で難解に過ぎない。
「死を合わせるのが『幸せ』ならば、存分に味わうが良い。其方の骨が土の中で砕ける音は、きっと今の鳴き声よりも、ずっとカミの耳に心地よく響くはずだ……其方の笑いを、この大地が飲み込む時が来た」
「……『飲み込む』!良いですね、大地は食いしん坊だ!さあ、召し上がれ!私という名の『最高に笑えないフルコース』を!いざ、参りましょうなんて!」
抜かした中でチカゼが黒曜石の打製石斧をかまえ、私は裾の鉄扇に手を伸ばす。その辺りで、ようやく館の扉の奥に六つの黄色い瞳が覗いていた。
狂いを追うがままに抜かした蓋は青空にこぼれ落ちて、没を笑う狂気を帯びている。今はただ、言葉を交わすが唯一の一時で、奈良時代の娯楽に過ぎず、私のものだ。