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琥珀色のシャッター
商店街の一番奥、街灯の光も届きにくい路地の角に、その店はあった。
『ミナト写真館』と書かれた木製の看板は、雨風にさらされてすっかり色褪せている。
大学生の蓮がその店に迷い込んだのは、ただの偶然だった。
突然の夕立に降られ、軒先を借りるつもりで飛び込んだのだ。
「いらっしゃい」
カランコロンと涼しげな鈴の音とともに奥から白髪の老人が現れた。
仕立ての良いベストを着て、胸元には古風な懐中時計を下げている。
「あ、すみません。雨宿りをさせてもらいたくて……」
「構わんよ、これも何かの縁だ。せっかくだから、一枚撮っていかないかね?」
老人は穏やかに微笑み、カウンターの奥にある重厚な蛇腹カメラを指差した。
「いや、持ち合わせがなくて」
「金はいらんよ。うちは少し特殊な写真館でね。料金の代わりに、君の『忘れたくない思い出』を一つ、私に聞かせてほしいんだ」
怪訝に思いながらも、蓮は店内に漂う珈琲の香りと老人の不思議な温かさに引こまれ、古い木製の椅子に腰を下ろした。
「忘れたくない思い出、ですか……」
蓮は少し考えてから、半年前に亡くなった祖父のことを話した。
いつも頑固で、口数が少なかった祖父。
けれど、蓮が大学に合格した日、不器用な手つきで頭を撫でてくれたこと。
その時、祖父の手が驚くほど温かかったこと。
「いい思い出だ」
老人は優しく頷くと、カメラの覗き窓に目を当てた。
「ではそのぬくもりを思い浮かべながら、レンズを見てごらん」
**カシャリ**
乾いたシャッター音が響いた瞬間、蓮の目の前が真っ白な光に包まれた。
「さあ、お前の写真だ」
受け取った写真を見て、蓮は息を呑んだ。
写っていたのは、今の自分の姿だけではない。
蓮の肩に、優しく大きな「誰かの手」が重なっていた。
半透明で、だけど確かにそこにある手
「これは……」
「思い出は、心の中にあるだけじゃない。こうして時々、持ち主を温めるために姿を現すのさ」
老人はいたずらっぽくウインクした。
蓮がハッとして手元から顔を上げると目の前にあったはずのカウンターも、蛇腹カメラも、老人の姿も消えていた。
そこは何年も使われていない空き店舗だった。
しかし、レンの手には、確かに一枚の温かい写真が握らされていた
夕焼けに染まる商店街を歩きながら、蓮は写真をそっとポケットに仕舞った。
胸の奥が、あの祖父の手のように、じんわりと温かった。
この作品を読んでくれてありがとうございます!
まだまだ続かせようと思いますので、よろしくお願いします!