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第2話「新居は同居人付き」
Ameri.zip
この物語はフィクションです。また、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
【前回のあらすじ】
シイ・シュウリンに連れられて、異世界へやって来た現役男子高校生の落安零。
住む所が無く困り果てた零にシイが出したのは、まさかの「自分と同居しないか」という提案だった。
目の前が暗くなりそうだ。いやもう、今すぐにでも目をつぶって現実逃避したい。
信じがたい発言をした当の本人は、呑気にニコニコしながら僕の返答を待っている。もしかしたらこの人、馬鹿なのかもしれない。否、もしかしたらじゃない。確実に馬鹿だ。
「どう?良くない?ね?良いっしょ?」
「…乗り掛かった船が燃え盛る豪華客船だった気分ですよ」
「?ゴーカキャクセンってどゆこと?」
「最悪な気分だってことです」
「マジか。駄目かぁ」
何で了承されると思ったのか分からないが、とにかく自信があったらしい。本当に、何で良いって言うと思ったんだ…???目の前の彼は彼で想定外だったのか、今にもあちゃぁと言いそうな顔をしている。
「…あ!そうだっ!!!」
「何がそうだなんですか…?」
不安だ。シイさんは子供のように顔を輝かせ、良いこと思い付いちゃった~♪と言っている。顔が。
せめて、その良いことがさっきみたいにイカれた提案ではなく、ちゃんとマトモな提案であることを祈るが…
「オレと一緒に住んでる奴がいるから、もし零くんがオレと一緒に住むなら、ソイツとも一緒に住むことになるの!どう?!」
「さ、最悪だ~…!!!」
顔を覆う。目の前で眩しいほどの笑顔を称えている|シイさん《すごいバカ》の襟を掴みたいくらいだ。
本当に原理が理解できない。思考回路の仕組みが違うのだろうか??それとも、なんだ、まさかコイツ宇宙人だったりしないか?実は、中国語を話しているフリをして、全然別の言葉を話しているのかもしれない。
当の本人は、僕の本音が聞こえなかったかのようにまだアピールポイントを列挙している。飯が旨いのは分かったから、せめて同居人がどういう人かなのかくらいは教えて欲しい。
「だからね~、怪我とかしたらすぐに」
「シイ?!!!」
鼓膜が破れるかと思ったくらいに、大きな声が聞こえてくる。声の主を探すと、シイさんくらいの背丈の男がいた。…誰?
名前を呼んでいたし、まぁ恐らく知り合い…なのだろうが、それにしたってえらい驚きようだ。今にも目が溢れ落ちそう。
「…あ!フーゾ!!!フーゾじゃん!!!わーいおひさ~!!!」
シイさんがその人の方へと走り出す。いや、僕を置いていかないで欲しい。一応ここ僕にとっては異邦の地だし、不安なんだけれど…と思いながら、シイさんの後に続く。彼の側を離れて拐われるのも癪だ。
と、目の前でシイさんがフーゾと呼ばれた男に抱きついたので、思わずギョッとする。確かにシイさんはスキンシップ激しい感じしたけれど、さすがにこれは相手さん嫌じゃないのか…?と心配になる。
「んも~人前~。俺は良いけどさ。可愛すぎるから控えてよ」
「へへ、|对不起《ごめんなさい》♪」
(可愛すぎる…???変なノリなんだな…)
二人はまるでバカップルのようにイチャ…仲良くしている。相手も満更じゃなさそうだ。…そして、絶対に僕のことを忘れられている。物凄く気まずいが、二人の空気を邪魔するのも申し訳なくて、スッと気配を殺した。
「あ、紹介すんね。コイツフーゾ、オレの同居人で、零くんと一緒に住むヤツ♡」
「え、どゆこと?」
(コイツか~…!!!!)
せめてマシな人だったら良かったのにと、天を仰ぎそうになる。あと、話通してないのヤバすぎるだろ。せめて言ってあげろよ。
「え~?スーツ着てるってことはこのコ男でしょ?堂々とした浮気じゃんね(笑)俯いてて顔見えないし」
「いやフーゾ、安心して欲しい。絶対に気に入るから。ほら零くん!|让我看看你可爱的脸《カワイイ顔見せて》!」
誰が可愛いだ、誰が。ふざけた呼びかけに応じるのは癪だが、ここで抵抗してもどうせ疲れるだけだろうと思い、顔を上げる。うぅ、身長が高い…
と、フーゾ?さんがこちらに顔を寄せてきた。すごく近い。ガチ恋距離というやつだろうか、勘弁してくれ。
「え~、かわいいじゃん。何このコ、どこで拾ってきたん?」
「あーね、それ話したら長くなるから一旦家行こ〜」
「え、ちょ」
シイさんの謎の美的センスで僕が可愛い扱いされていると思っていたのだが、もしかしたらこの世界では僕みたいなのが…その、可愛いのかもしれない。美醜逆転というやつか。
いやそれより、なんでもう同居する流れになってるんだ。僕は別に良いなんて言ってないのに…この人たち、強引すぎやしないか?
逃げるわけにも行かず_更に手首まで捕まれたので_大人しく連行されることにした。絵面だけ見たら完全に犯罪だ。
「こちらが、零くんの住むおうちで~す!」
「いえ~いパチパチパチ」
いつの間にか入居することになっていた家の前まで連れていかれた僕は、あれよあれよと家の中に入らされてしまった。シイさんの手首を掴む力が強すぎて、若干痕が残っている。馬鹿力め…
腹立つ顔で手をひらひらさせているシイさんと、やる気のない拍手をしたフーゾさんに両脇を挟まれながら家の中を"無理やり"内見させられる。
僕の家より若干広く2階建てだったその家は、隅々まで掃除が行き届いていてさながらモデルハウスのようだった。
「ね、綺麗でしょ?俺は別にこだわりとか無いんだけど、シイが綺麗じゃないと落ち着かない!って」
「いや、普通に綺麗な方が良いだろ?」
(案外几帳面…なのか…???)
俺は別にそういうの気にしないんだけどね、とフーゾさんは笑った。その人の良さそうな笑い方につられて、僕も少し笑ってしまう。頭は可笑しいけど、良い人かもしれない。…そんなわけないか。うん。
「んで、料理は今のところオレら二人で分担してんの。味の好みおんなじだから別に困んないんだけど、もし好きじゃなかったら言ってね」
「掃除はシイが、洗濯は俺がやってる。買い出しは予定空いてるヤツが行ってるから、特に分担は決まってないよ」
「お二人ともそれぞれ曜日ごとに役割を分けているんですね…」
今僕は、シイさんとフーゾさんに、この家でのルール等を教わっている。あまりにも懇切丁寧な説明をされるものだから、こちらもしっかり聞かなければいけないような気がしてしまったのだ。
「そそ、零くんは別にお手伝いしてくれても良いし、やんなくてもいいよ!」
「服とか欲しいものあったら言ってくれればなんでも買ったげるし、仕事も…まぁ…口添えはできるよ。やんなくてもいいけど」
「…その、もしそれらをやらなかった場合って、他に僕のやることは…」
「「ないよ」」
(僕は何もするなってことか…???)
仕事で危険な目にあうかも、とかは確かに不安だが…包丁で怪我するかもに関しては馬鹿にされているような気がする。さすがに料理くらいはできる…はず。やったことないけれど。
「まぁ、そういうのって追々考えてけば良いし。まずはこっちの空気に慣れてもらわんと」
「そうそう。焦りは禁物だよ」
「そうですか…」
それならまぁいいかな…と言いかけていた自分がいたことに驚く。何を言っているんだ。危うく流されるところだった。
そもそも前提がおかしい。僕は確かに家を探していたが、でもそれはあくまで一人暮らしをするためだ。決してこの人たちと住むわけではない。あまりにも話が早すぎて忘れていた…。
だが、はたと気がつく。ここで断ったとして、その場合僕はどうなるんだ?
まぁ普通に考えたら家無し…だよな。さすがに僕の我儘でお金を払ってもらうのは…うん、申し訳ない。そもそも、この人たちって何してる人なんだ…???
こんな家を持っていて、僕の欲しいものもなんでも買うと言えて、戸籍も用意できるような人って、それってつまり、反社…?そんな人たちを怒らせたら、まぁ恐らく…否、確実に何か宜しくないことが起こるはずだ。それこそ"住み込みの仕事"であったり、最悪の場合、なんか…こう…奴隷みたいな…??
「…おーい、おーい?零くん、聞いてる?」
「めちゃくちゃ考え込んでるけど、やっぱ無理があったんじゃない?」
「えーそう?良い案だと思ったんだけど」
「ガチで?」
「え?」
「…__す__」
「「す?」」
「…お二人と…一緒に、住みたい…デス…」
◇To be continued…
【次回予告】
「もしかして零くんって旧世界のコ?」
「ほう、実に興味深いな」
「…零くん疲れたよね、おやすみ」