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第壱話【表】
ピチチチ………。
小鳥のさえずりの音で、シラハ・カナリアナスは目を覚ました。体を起こし、鏡の前へといく。もう十三歳だというのに、鏡に映った顔はなんともマヌケだった。慌てて、手で、灰色の髪を整える。まだぴょこんと跳ねる癖っ毛を乱暴に押さえて、メイド服に着替えると、外へでた。廊下を歩いていると、一人の少年が近づいてきた。
「シラハ姉ちゃんおはよう!」
「おはよう。ディアナ。」
シラハはディアナと呼ばれた少年に優しく微笑みかける。ディアナはきょとんとした表情で、言った。
「シラハ姉ちゃんの笑みってなんか怖いね。」
シラハは最初、なにを言われたか分からなかった。すぐに、侮辱されたと分かり、傷つく。呆然と立っていると、ディアナは慌てて顔の前で手を振った。
「ち、違う!そ、そんな意味じゃなくて………。」
「はいはい。ディアナくんはシラハお姉ちゃんに振り向いて貰いたいから変なこと言ってるんでしょう?」
にやけ顔で、横で遊んでいた少女、カエデが口を出した。すると、ディアナは耳まで真っ赤にして否定した。
「違うわ!」
カエデは余裕の表情で、「唾を飛ばすな」と文句を言った。睨み合う二人。このままだと喧嘩になりそうだと思ったから、話題を変えることにした。
「ノルエ様はどこにいる?」
ノルエ様の話題を口にすると、二人の顔が明るくなった。
「ノルエ様は今日一日部屋から出てないよ…………。」
「私、ノルエ様と早く遊びたいよ……。」
二人は暗い表情を見せる。気まずくなったシラハは別のことを早口で口にした。
「じゃあ、私が遊んであげるよ。」
シラハのセリフに二人の顔がまた明るくなった。ころころと変わる二人の表情を愛おしげに見つめた。まだ子供だなという気持ちもあったが、それはシラハもなので言わなかった。
「じゃあ、ボール遊びしよう。」
シラハの提案にディアナは不満げに唇を尖らした。
「ねぇ、シラハ姉ちゃん。それ前もやったよ。」
「あれ?そうだったっけ?」と首を傾げた。
「前っていつ?」
そう聞くと、カエデが心配そうにシラハを見つめた。
「シラハお姉ちゃん、病気?」
シラハは首を横に振る。病気ではない。けど、なんか記憶が抜けている気がする。
「きっと、気のせいだよね…………。」
ポツリと呟いたと同時に鐘の音が鳴り響いた。
「あ………お祈りの時間だ…………。」
シラハは二人を連れて、お祈りの場へと向かった。途中にある、金色のテンプレートがかかっている部屋。テンプレートには「ノルエ・モヴ・クロッカス」と掘られている。
ノルエ様の部屋には側に仕えるシラハでさえ、許しをもらわなければ入ることはできない。
シラハは中にいるであろうノルエ様を扉越しに見つめた。もちろん、視線が合うなんてことはない。シラハは三秒ほど間をおいて、お祈りの場へと向かった。
お祈りの場に来たのはシラハで最後なようだ。真っ白で艶々な大理石でできたお祈りの場。一番奧には豪華な席があるが、ノルエ様でさえ、その席に座ったことはない。
座ったらお尻が痛くなりそうだと、いつも思う。シラハは指定の場所へと行き、跪き、両手を合わせ、祈りを捧げた。
なにに祈りを捧げているかは分からない。きっと、あの席に座る誰かに向けてだと思う。三十分くらい経つと、雲に隠れていた太陽が出てきて、その光をカラフルなガラスが反射し、床を彩った。
その光をぼんやりと見つめる。それから、なぜか本来ならばやってはいけない、顔を上げることをした。窓の先に見える搭。この国、ニンファエア国のシンボルのような物だ。
その搭を見て、ようやく自分が顔を上げているのだと認識し、慌てて顔を下げた。心の中で、席に座る誰かに必死に謝る。
そうしている間に、お祈りの一時間は過ぎた。
昼食を食べるために、みんなを連れて、食堂へ向かった。食堂にも、ノルエ様はいなかった。
いつもノルエ様が昼食を食べている席をシラハは寂しそうに見つめた。午後にはノルエ様に会えるといいなと思いながら昼食を食べた。
あとがき
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
良ければ、どうだったか教えてほしいです…………。
最後、セリフ無ですみません!
でも、一応伏線?的なものもいれてあるので、しっかりと読んでもらえるとうれしいです!
次回も読んでいただけたら嬉しいです!