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俺となるための
……まぁ、ライアンの、この何とも言えない微妙な顔は当然っちゃ当然だな。師が幼女に転生してきたんだから。
こいつ、意外にも温かい奴なんだよな。とにかく優しい。それに、この小屋も、まるで焚火のすぐそばのように暖かく感じる。
「ど、どうしましたか?」
「あ……あぁ、すまない。ちょっと考え事をしていてな」
「……あの、その子って」
こいつが言ってるのは、恐らくヘレンのことだ。
「そこそこ過酷な状況で育ってきたらしい。ここ数日は、服も替えてなさそうだ」
「……さすがに子供服なんて持ってませんよ」
「大丈夫だ。俺が洗っておく。それと……」
俺はぼさぼさの金髪を横目に言った。
「……女の髪は、勝手に切ってもよいものなのだろうか」
ライアンは、少しばかり考えて、
「彼女を呼び起こしてみたらどうでしょう?もし彼女が来たら、そのことについてお尋ねください。もし来なかったなら、それは既に貴方の身体ということになるでしょう」
「……そうか」
彼に、なんだか不思議なものを感じた。
神経を集中させて、ヘレンを呼び出した。
しばらくは無音だったが、微かに、少女の声がした。
「……わたしは、いいよ」
「いいのか……?」
「だってわたしも、短い髪、やってみたかったし。それに……」
「それに?」
「はじめての反抗、とでもいえばいいのかな?」
そう言って、ヘレンは微笑んだ。
我に返ると、ライアンは言った。
「明日、床屋に行きましょうか。行きつけの店があるんです」
翌日は、綺麗な晴れだった。
ある程度、髪の汚れも落として、綺麗に洗った服(それでも、ぼろきれであることに変わりはない)を着て、ライアンと隣町の床屋に向かった。
俺は紐で髪を括っていた。結び方などわからないが、前世の母や姉がやっていたのを思い出して真似した。
洗うと、その金の髪は、切るのが勿体ないほどに美しくなった。けれど、戦いの時には動きが制限されるし、まぁ、全部刈り上げるわけでもない。
町は立派だった。質素を愛するライアンにしては変だな、と思いつつも、活気のあるその町に足を進めた。
「さぁ、着きましたよ。ここです」
カランカラン、と、ドアを開けると、中はそれこそライアンの好きそうな落ち着いた床屋だった。
「あぁ、ライアンさん。お久しぶりですね。あれ、その子……」
「親戚の子で。身寄りがなくなって、私がこの間引き取ったんです」
そう言うライアンのそばで立つ俺を見て、
「こんにちは」
と、微笑みかける。
「……こんにちは」
「今日はこの子の髪を切って頂きたいです」
「わかりました。じゃあ、お名前、聞いてもいいかな?」
ここは恥を捨て、ヘレンの力も借りながら演技に全振りしよう。
「ヘレンです!」
「可愛いお名前だね、ヘレンちゃん。今日はどのくらい切る?」
「んと、えーっと、短く切りたいの!男の子みたいに!」
「いいの?勿体なくない?こんなに伸ばしたのに」
「いいよ!かっこよく、バッサリ切って‼」
「わかった、すごくかっこよく仕上げてあげるから、待っててね」
耳のすぐそばで、しゃく、しゃく、と、髪が切られる音がする。
少しだけ、頭が軽くなって、風通しが良くなって少し涼しい。
「はい、どうかな?」
鏡を見ると、栄養失調気味なのもあってまだ成長期の来ていない顔では違和感のない少年の顔になっていた。
「ありがとう、おにーさん!」ニコニコ~
俺は女性に興味がないが、ヘレンは世間一般としてはそこそこ美少女らしい。その顔で満面の笑みアタックをお見舞いしてやった。
「行こ、おじさん!」
お代を出してくれたライアンをサラッと「おじさん」呼ばわりして、店を後にした。
はい書きすぎた☆
髪を切る音、迷った奴集。
◎しゃくしゃく
・しゃきしゃき
・しゃっしゃっ
・ちょきちょき
・ちゃくちゃく
・しゅかしゅか
・しぇりしぇり
大半聞いたことない自作。
私の憧れの宮沢賢治も雪踏む音「キックキック」ですから。
ショートからベリーショートにしただけでも感じる散髪後の涼しさは、ほぼ体験談です。