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7話「ナゾの卵との出会い」
アルデニア町での騒ぎが落ち着いて数日。
宿の一階はいつものように、朝のパンの匂いと人々のざわめきで満たされていた。
私はパンをかじりながら、ぼんやりと窓の外を見ていた。
――あれから、私が「この世界の過去」に関わりがあることを示す記憶は、まだ戻っていない。
ただ、胸の奥がそわそわしていて、何かが近づいているような気はしていた。
「レナ、今日は市場行くんでしょ? 私も行く!」
元気に飛びついてきたのはミナ。
フードを深くかぶったリスは、テーブルの端で静かに座っている。
「うん。ちょっと気になるものがあって」
「気になるもの…? なんだろ?」
私たちは宿を出ると、賑やかな市場へと向かった。
果物の香り、鍛冶屋の金属を叩く音、商人の声が混ざり合い、活気にあふれている。
その中で――私は、どうしてかひとつの場所に足が止まった。
古びたテントの露店。
店番のおじいさんが、黙ってこちらを見ている。
そして、店先に置かれた布の上には――淡く光る卵がひとつ。
白でもない、透明でもない、
まるで空の雫が固まったような、不思議な色。
「な、なにこれ……?」
ミナが目を丸くする。
おじいさんは静かに口を開いた。
「坊やたち、この卵に呼ばれたのかもしれんな」
「呼ばれた……?」
「これは“星獣(せいじゅう)”の卵だ。
普通の人間には気配すら感じられんが…
どうやら、君には見えるようだね」
心臓がドクンと鳴る。
まただ。
“普通なら分からないものが、なぜか私には分かる”
その感覚が、胸の奥で膨らんでいく。
「ねぇレナ、大丈夫?」
ミナの声が、少し震えていた。
でも私は卵から目を離せない。
だって――
卵が、私に触ろうとしているみたいだったから。
その瞬間、卵が淡く光った。
「……!?」
光はまるで糸のように伸び、
私の胸元――あの転生時についていた“紋”へ向かう。
キィン…
胸が熱くなる。
まるで記憶の扉を叩くような感覚。
――また思い出す。
名前も、過去も、世界のことも。
でも、すべてがつながるにはまだ足りない。
光が消えると、卵は静かになった。
おじいさんはうっすらと微笑む。
「その子は君を選んだようだ。
星獣の卵は、自分で主を決める。気まぐれで、強くて、そして優しい存在だ」
私はそっと、卵を手に取った。
ひんやりしているのに、中からはあたたかさが伝わってくる。
「……連れていくね」
気がつくと、そう言っていた。
ミナは少し不安そうに、でも嬉しそうに笑う。
「レナの仲間…かな?」
リスもじっと卵を見て、静かにうなずいた。
おじいさんは続けて言う。
「孵るのはいつか分からん。だが――
その子が孵った時、きっと“何か”が始まるだろうよ」
“何か”。
それがこの世界の危機なのか、
私の失われた記憶なのか、
それとも――新しい運命なのか。
私は胸に抱えた卵を見つめる。
不思議な卵との出会いが、私たちの旅をまた大きく動かし始めていた。
第1章終わり!そうなっちゃった(((