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お姉ちゃん
好古の方のやつ持ってきた
2025/07/12
お姉ちゃんが死んだ。自殺だった。学校の昼休みに友達とご飯を食べていた時、突然柵を飛び越えて落ちたらしい。自殺現場を目撃したお姉ちゃんの友達は、それから2ヶ月が経った今でも時折精神がひどく乱れると聞いた。
お姉ちゃんは進学校に通っていた。勉強も運動も軽くこなしていたようだし、性格に関しても穏やかで感受性豊か、いつも柔らかい笑顔を浮かべていてみんなから好かれていた、顔など街中を歩くと振り向かれるほどで、悩んでいるようには見えなかった。そんな彼女が、なぜ自殺を?周囲の人々は首を傾げていたし、私自身も全く理解ができなかったが、それでも私たちはお姉ちゃんの死を受け入れなくてはならなかった。葬式ではお姉ちゃんのためにたくさんの人が悲しんだ。涙を流していた。私は泣けなかった。お姉ちゃんのことは好きだったが、それ以上に羨ましくて、そして妬ましくて、だから、そんな彼女にも死を選ぶほど苦しいと思うことがあったという事実に、少しだけ、ほんの少しだけ、安心していた。それでもやはりお姉ちゃんがいない日常というのはぽっかりと穴が空いてしまっていたようで、眠る時に布団に入って無意識に彼女のことを考えると、生ぬるい液体が頬をつたった。
しかし2ヶ月ほど経つと気持ちも落ち着いてきて、ずっと入れなかったお姉ちゃんの部屋に足を踏み入れたいと思うようになった。ある日、怖かったけれど勇気を出してお姉ちゃんの部屋のドアを開けた。お姉ちゃんの部屋には勉強机やベッドがそのまま残されていたけれど、まるで魂が抜けたようで、どこか圧迫感があって、息が苦しくなった。壁は真っ白で机にも棚にも傷や汚れ一つなくて、本当にこの部屋を使っていた人間がいるとは信じられないほどだった。お姉ちゃんはものを大切にする人だったんだなと、姉妹だったのにそう気づいたのはその時が初めてだった。お姉ちゃんの勉強机をそっと撫でた。鼻の奥がつんとした。ふと、勉強机の上棚が気になった。彼女の使っていた教科書がそのまま立ててあった。その中に一つ、等身の低い本が混ざっていた。手にとってみて、それが日記だと理解した。ページをめくろうとして、手が止まった。プライバシーの侵害とか、そういうもんだろう、日記を勝手に見るのって。だけど見たい。お姉ちゃんの心の内を知りたい。
頼れるお姉ちゃん。しっかり者のお姉ちゃん。優等生のお姉ちゃん。そんなお姉ちゃんは、私たち周囲の人間が勝手に押し付けた「お姉ちゃん像」だったのだろうか。
お姉ちゃんが死んでからずっと、そんなことを考えていた。それでも当然答えは出なくて、だから、この日記で何かがわかるような気がした。
お姉ちゃんごめん。ごめん。勢いに任せて日記を開いた。形の整った文字がページいっぱいに広がっていて、面食らった。段落というものはまるで存在しないかのような、本当に思ったことをただ綴ったような、そんなものだった。お姉ちゃんの気持ちを全部汲み取りたくて、ひとつも逃したくなくて、喰らいつくように文字を追った。お姉ちゃんの日記にネガティブな言葉はなかった。「今日も楽しかった。お弁当の卵焼きが美味しかった。甘い卵焼き結構好きかも。」とか「クッションに穴が空いてわたが飛び出していたので縫った。糸の色が流石に合わなくて浮いているような気も。世界にひとつだけのものだね。」とか。ああ、お姉ちゃんはここでもお姉ちゃんを演じなくちゃいけないんだと思った。あるいは、お姉ちゃん自身が自分はこうでなくてはいけないと思い込んでいるのかもしれなかった。真相はわからない。本当にこれがお姉ちゃんなのかもしれない。いつの間にか、日記には灰色の水玉模様ができていた。まだ最初の数ページしか読めていなかったけれど、私は日記を閉じ、自分の部屋に持ち帰った。お姉ちゃん、大好き、と心の中でつぶやいた。
「お姉ちゃんの死に対しての安心」
↑よい
わたし天才だわ!!!!!!!!