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どこかの世界での物語
「俺、手術することになった」
彼があっけからんと言った。
えっ?の一言でも言えばよかった。
「えっえっ!?なんでぇぇぇ!?」
友達のるなが大慌てで詰め寄る。
「ん~いや、生きて帰ってくるし。大丈夫っしょ」
彼は明るく笑ったけれど、私にはどうも無理やり笑ったように見えた。
「生きて帰ってこなかったら殺す!!」
るなが鬼の形相でくわっとつかみかかる。
「いや死んでるのにどう殺すんだよ」
「それもそうか!」
るながにへっと笑う。
横にいた友達のれおもははっと笑った。
部屋が明るい空気に包まれたところで、私はパチンと電気を消して「寝るよ」と声をかけた。
るなとれおは初めての泊まりで疲れているのか、すぐにくかー、といびきが聞こえた。
「つきの」
暗い部屋に彼の声が聞こえた。
「...ん、?」
考え事をしていたから、返事が遅くなった。
「なんで俺がこんな目にあわなきゃなの」
心の底からぽつっと溢れた声。
「こわい」
悲痛な叫び。
「余命宣告?ふざけんな、ドラマかよ。」
驚きの事実に全身がぞっと粟立つ。
「死んでもいいとか思ってたけどやっぱ無理」
そりゃそうだよ、あたしだっていやだ。
「俺、死にたくない」
「まだ誰かに言いたかったこともやりたかったこともあるのに」
「**なにも考えずに生きてたかった**
ぼーっとしてるだけで時間が過ぎるみたいなおもんない生き方でもいい。
こんな波瀾万丈な人生求めてない。」
素をさらけ出した叫びに感情が揺さぶられた。
「なぁ、つきの、俺が周りで生きてる幸せな奴ら全員癌になって死ねばいいとか言ったら、俺のこと嫌いになるか?」
「......ッ、きらいになんて、ならない、ッ」
声が震えてまともに喋れない。
そりゃそうだよ!あたしだって、あたしだってあんたみたいな立場になってたらそれくらい思うよ!
だから嫌いになんてならない!
心の中でくすぶっている悲痛な声は声にできないまま押しとどめた。
「膵臓がんって診断された帰りに車に向かう時も車の窓からもそこら辺にいる人見てた。
幸せそうに笑ってるのが憎くて仕方なかった。
最低だけどそれぐらい悔しくて仕方なかったんだよ。」
膵臓がん、?
「...お腹痛い。」
カーテンの隙間から漏れ出た光で彼の横顔が照らされた。
彼の目じりがチカっと光ったのを見て、彼が泣いていることに初めて気が付いた。
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その二日後。
メールが届いた。
彼は、もう手術をしたらしい。
『俺、あと5か月もつかなんだってさ。
もう面会もできないらしい。
ばいばい。
10がつにしにまーす』
このメッセージを見て、は?と声が漏れた。
本当はわかってたんだろ、?なんでわたしにいわないの、?
もう、直に会えなくなっちゃった。好きって言えなくなっちゃった。どうしてくれるんだよ、ばか!
こっちのきもちも、ちょっとは考えてよ、ねぇ、
好きって言わせてよ、榊くん