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3日後、天使になる貴女へ
__ 設定:にゃる __
二年生の教室と三年生の教室、それらへ向かうために交差する階段でいつもの通りに出会った。
「…綾瀬先輩、おはようございます」
「私は3日後に死ぬ」
すれ違う途端に耳元でそう囁くいたずらっぽい彼女のことだから、またそうだと考える。
「先輩は…死にたいと思いますか」
それでも、振り返って手を引いて優しく微笑んでみた。
「どうせ、あと少しの命だ」
質問に答えず、さっさと手を振り解いてしまった。それが彼女が天使になるまで、あと三日。
「綾瀬先輩!」
わざわざ教室に出向いてまでして、彼女に会いに行ってみる。
「私に何か御用かな」
そう聞かれ、とっさに口走った。
「何かしたいんですけれど」
「何もしてくれなくていい」
「でも何もできないんです」
「…それでいいじゃないか?」
さきほどまで授業で使っていたらしい難しい内容の教科書を、だんだん片付けた。それから表紙に遺書、とだけ大きく書かれる一冊のノートを取り出している。
「綾瀬先輩、分かってくださいよ」
「分かりたくない」
「じゃあ!…じゃあ、遺書手伝いますよ」
「まったく何を言い出すのか」
彼女がため息をつくのと、予鈴が鳴るのは同時だった。そうして刻一刻と時は進み、あと二日。
「私が死ぬ日はどうやら雨予報だ」
「てるてるぼうず、作りましょうか?」
「そんな不吉な」
これが最後かもしれない帰り道で、ただただ笑いあっている。よく晴れた空の下の川では、たくさんのてるてるぼうずが流れていた。そしてあと一日だったが、彼女は学校に来ず0日目を迎える。そこでやっと、これが真実だと悟った。
「先輩…!」
走り出す彼女の背を追いかけ続け、屋上に飛び出した。ただ立ちすくんでいる時、近くて遠い空で白いワイシャツが舞った。
「…先輩は天使になったんですね」
無意識のうちに足が進んで、また最初に死ぬことを告げられた日のようにその天使に手を差し伸べようとする。
「でも、わたしは悪魔ですしね」
彼女が天使ならこちらは悪魔、そんな心構えだった。ハッとして、手を抑える。そんな最後の空は、どうにも醜い色をしていた。