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ep.3 宵闇とバイオリン弾きの過去
〜Noah side 〜
俺は孤児だったらしい。橋の下に籠が置かれていてその中に入ってたと、育ててくれた養父が言ってた。その中に一通の手紙が入っていて、
『どうかこの子を、ノアを立派に育ててください。私は貧しく、この子を幸せにしてあげることができません。どうかお願いします。』
だってさ。笑えるだろ?幸せにすることができないって。見ず知らずのやつより、親と過ごした方がよっぽど幸せになれると俺は思うね。もし、変なやつに拾われれば命すらないのにな。俺の母親はそんなことも考えられなかったのかな。
そして、俺は養父さんと養母さんに拾われた。可愛いと一目惚れだったらしい。それと元々、養母さんは子供ができにくい体質だったらしい。そこで俺を拾ったんだと。それ以前に俺を可哀想だと思ったらしい。優しさだろうけど、俺にとってはそれはもう屈辱だった。
その話を幼少期から何度も聞かされた。あなたは私の元に舞い降りて来てくれた天使だと、養母さんは言ってた。彼女なりの愛情だったんだろう。当時の俺は捻くれていて、嫌味にしか聞こえなかったがな。中々心を開くことができなかった。
話が少し変わるが、養母さんと養父さんは政略結婚だが、仲はすこぶる良かった。養母さんは愛情深い優しい人だったよ。反対に養父さんは冷静で無愛想な感じだった。亭主関白って良く周りの奴らから言われてて、養母さんめっちゃ笑ってたな。俺もそう思われてることが面白かったが、プライドが勝って無視してた。だって、養父さん、記念日とか全部覚えてやがるんだ。まぁ、そんな2人は喧嘩もしたことがなく、平穏な日々を過ごしてた。養母さんの病気が発覚するまではな。
養母さんが重い病気に罹ったんだ。しかも末期の。
日に日に養母さんは衰弱してった。最後の方は頬がこけて、髪もボロボロだったな。そんな時でも、俺は素直になれなかった。もちろん、養母さんのことは大事だと思っていたよ。そして、養母さんは死んだ。最後まで俺に寄り添おうとしてたよ。葬式に行った。その後、家に帰って、養父さんからこう言われたよ。
「母さんはお前のことを最後まで心配していたな。」
その言葉に俺はカチンときたね。そんなこと俺でも知ってるよ。素直になれない気持ちをわからないからそんなこと言えるんだよって思った。
「どうせ、孤児の俺を助けていい人ぶりたかっただけだろ。同情の気持ちなんざ俺にはいらねえ。」
本心でもあったし、本心でもなかった。その瞬間、養父さんから平手打ちを喰らった。真っ赤に目を腫らして、泣きながらな。そりゃそうだ。最愛の妻を侮辱まがいのことをされたんだからな。それから養父さんは家に帰ってくることが少なくなったな。なんたって、有名バイオリニストだ。元々、帰ることが多くなかったが、養母さんが亡くなってから滅多に帰らなくなった。コンサートやらで忙しいんだろう。
俺はたくさんの人を傷つけた。養父さん、養母さん、時には家の執事やメイドにまで当たった。メイドたちは次々に辞めていった。1人、残ってくれた執事もいたけれど年で辞めてしまった。
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「もし、みんなとまた会えるのなら謝りたい。謝っても許してくれないかもしれない。」
ノアは今までの生い立ちを苦しそうに辛そうに語った。孤児であるということが鎖のようにノアを縛ったのだろう。
月が雲に隠れ、少しずつ辺りが暗くなっていく。ノアの表情が全く見えず、今どんな感情なのかがわからない。
「俺がバイオリン弾けるの、義父さんの影響なんだよ。養父さんは今日の舞踏会に来てんだ。だから向こうには行きたくない。行けない。」
震える声でそう言う。ノアの表情はわからない。わかりたくない。どういう表情をしているかが想像がつくから____