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出会いの本と境界の図書館 中編
前編を読んでから読んでください!
「…ねえ、このエレベーターって、何?」
「ん?」
木製の小箱に、わたしたちが格納されたみたいだ。
「コレハ『図書室移動エレベーター』。フロアゴトニ置カレテイル本ガチガウ」
「ログ!?」
小さめのラジオにベルトコンベヤーをつけたみたいな格好だ。
「ログはこうやって移動するの」
「そうなんだ」
ブウウン…チーン。プシュー。
「ごほっ、ごほっ…」
フロアに着いた合図のように、一面けむたくなる。
「ここは?」
「分かんないや。まあ、このエレベーターの紹介をしたかっただけ。さ、降りよう」
「…あ、うん」
よく見ると、ボタンが栞になっていた。
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「さ、着いた」
「わ…」
何回見ても、広い。
「じゃ、説明するから。
1階はここ、ロビー。さっき言った本が置かれているわ。
2階は恋愛系、3階は感動系。4階はホラー、5階はミステリー、6階はエッセイや詩。7階はノンジャンル。8階はコメディ、9階はノートや教科書、参考書…まあ、ここまででいいかしらね…まあ、分かれているの」
「…そうなんだ」
あの伝記螺旋とか、エレベーターのツタを見る限り、多分、1フロアずつが高いのだろう。膨大な数の本を、本棚に入れるのはいくら広くても無理だろうから。
「じゃあ、あなたにとっておきの1冊」
そう手渡されたのは、「この世界でわたしは」という本。普通の児童書だけど、見たことない。
「…これって?」
「借りていいからね」
そう押し付けられた。
最後のページを見てみる。
《1980年3月15日 第1版発行》
かなり昔の本みたいだ。でも、色あせてない。新品だ。
「いいよ、べつに。それ、興味そそられないし」
「いいから、読んでって!」
そうフークに押し付けると、本はほこりをかぶり、色あせて、ぼろぼろになった。
「えっ!?」
「ここの本には『いつまでも新品術』がかかっているの。読むときにはいつも新品で読めるのだけれど、古い感じもいいでしょ?だから、読まないときは古くなるの」
「へんなの」
とにかく、フークの言うことだ。信じていいのか分からない。
「これ、3階の本」
「恋愛系は、興味ないしっ」
「感動系だけど?」
「うっ…」
借りざるを得ない。
「あ、そうそう」
「どうしたの?」
「うち、セキュリティ厳しいんだ?だから、これつけて」
そのネームプレートみたいなものには、『本本良美 境界の図書館来訪許可証』とあった。
「じゃあね、帰るときは念じて。帰りたいって。行くときもね」
「う、うん」
帰りたいっ…!