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第六章 幽霊と人間
アミリスと一緒に人間の勉強についてディアドさんに教えてもらっているときに、僕が来てから2件目の依頼が来た。ルーヴィッドは『平日』で『学校』があるだとかでいなくて、ディアドさんと一緒に任務に行くことになった。アミリスはお留守番だけど、アミリスならなんとかなると思う。
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今回の依頼は、「自分の家のお墓から、何か声が聞こえる」なんてものだった。
ディアドさんのあとを着いていって、問題のお墓の前に来た。
「この墓か。今はなにも聞こえないが……」
「ん~……手を合わせてみましょうか?」
僕が手をパチッと合わせると、耳元で囁くような声が聞こえた。
『──に…げ……、……ま……ゆ……い』
「何……?」
「どうした?ミリュニカ」
ディアドさんには聞こえなかったみたいだ。もしかしたら、手を合わせた人にだけ聞こえる声なのかな?
「……何か聞こえたんです。手を合わせた人にだけ聞こえると思います」
「ふん……」
ディアドさんはそう言って、お墓の前にしゃがんで手を合わせた。
「……確かに何か聞こえるな。『に……ん……お……え………さない』?」
「僕は『に…げ……、……ま……ゆ……い』って聞こえました」
『……人間…、お前を……許さない……』
お墓から声が聞こえたかと思うと、僕の目の前に煙みたいな何かが現れた。
ソレは僕の魂を、身体から追い出した。そして、ソレがミリュニカの体内に入り込む。
「……クソッ、ミリュニカ!ソレはお前を消すつもりだ!肉体は、死に物狂いで奪い返せ!」
「ふぁっ!?は、はい!」
僕は消える?消えるって、どんなもの?
分からない。消えたくない。僕は、消えるんじゃなくて、成仏したい。
ミリュニカの肉体に無理やり入り込む。中のソレを追い出して、僕はミリュニカの肉体に落ち着いた。
「行くぞ!|霊力弾幕《ディラ・スクラウ》!」
そう言ったディアドさんの周りから、薄い黄色の弾が現れて、ソレを攻撃する。
ソレは、攻撃されて少し怯んだ。
「……|霊散《イルディア》!」
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お墓の周りにお供え物の花やお線香が散乱している。
煙みたいだったソレは、『人間……お前、を……』と呟いていた。
「……前世で何かがあったんだろう。人間が嫌いになるような、何かが」
頭を掻きながら、ディアドさんはそう言った。
ディアドさんの表情は、温かいようで冷たいように見えた。
「どうする?お前が良いなら、俺たちのアジトに歓迎する。でも、それが嫌なくらい人間が嫌いだったら、成仏させてやる」
ソレは、ずっと『………人間、許さ……な、い……』と呟いている。
「……分かった」
ディアドさんはそう言って、一枚のお札を取り出した。
「……|成仏《ダイング》」
お札に触れた煙は、すぐに空気に溶けるように無くなった。
それを無表情で見る『人間』に、僕は少し怖くなった。