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1-4 お揃い
前まで、直の帰りが遅いのは週に1度ほどだったが、紗絢の「友達の家に居た」発言から、週に2回、3回と増えるように。
それに従って、隼人の家に行く回数も増えていく。
最初は気まずさが強かったが、一緒に過ごす時間が増えたことで、だんだんと気を許せるようになってきた。
「…今日、何かあった?」
隼人が勉強している横で寝転がって小説を読んでいると、声をかけられた。
「え、急に?なんもないよー」
心配してくれてありがと、と付け足す。
「そっか、ごめん。なんか今日表情くらいなぁって思ったんだけど、気のせいか」
自分のことをこんなに気にかけてくれているんだ、という気持ちと罪悪感が溢れる。
「…ごめん。嘘ついた。今日ヤなことあった」
「そうなんだ。どうする?僕に話す?」
「話したら、隼人はどうする?」
「んー、そうだね。『大変だったね、頑張ったね』って頭なでなでする」
頭をワシャワシャするゼスチャーを見て思わず笑ってしまう。
「…うん。話そっかな。なんか、軽くなる気がする」
「うん、どんとこい」
「私、いじめられてるんだよね。お父さんが浮気してるの見られたり、家の前通った時に、お母さんの怒鳴り声聞こえちゃったり。前まで遊んでた子も離れてっちゃって。親に『あの子と関わるな!』とか言われてるのかなぁ」
笑って誤魔化そうとするが隼人の表情は真剣そのもの。
「隼人はごまかせないか。それはもう1年ぐらい経ってるんだけど、だけど今日、いつもよりガツンと来たというか…」
紗絢は1回口を閉じ、深呼吸すると、再び話を始める。
「…教科書破られちゃったんだよね。それはもう、ビリッビリに。まだ1学期なのに。だから今日、「教科書全部忘れました」って誤魔化すことしかなくって、これから最後までずっと怒られるのかぁ、って思うとしんどくなっちゃった」
すべてを話すと隼斗は、
「話してくれてありがとう。まずは、『よく頑張ったね、偉いよ、紗絢』」
と約束通り頭を撫でてくれる。
「そっかぁ、紗絢もいじめられっ子かぁ。僕とお揃いだね」
そう言いながら足を崩し、寝転がる隼人の言葉に驚く。
「え!?隼人もいじめられっ子なの!?」
「うん。そうじゃなきゃ、毎日のように家に1人で居ることもないし、年下の女の子家に連れ込まないでしょ」
笑いながら言う隼人に少し納得してしまう。
「僕の母さんは、浮気癖があるんだ。幼稚園の頃から僕の友達の父さんと、すぐ寝るんだ。それがドンドン広まってさ」
「そっかぁ、ホントにお揃いだね」
「うん、世界で一番嬉しくないお揃い」
世界で一番嬉しくないけど、世界で一番心強いお揃いではあるよ。