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媚薬。
コタンの夜は更け、小さなチセの中には楓と杉元の二人だけが残されていた。
いろりの火がパチパチとはぜる音だけが響く中、杉元の様子がおかしいことに楓が気づくのに、そう時間はかからなかった。
「……杉元、さん? 顔、真っ赤だよ。熱でもあるんじゃ……」
楓が心配して手を伸ばした瞬間、その手首を強い力で掴まれた。
杉元の荒い呼吸が、静かな室内でやけに大きく聞こえる。
「楓……離れろ。……今すぐ、外に行け」
絞り出すような声。いつもなら優しく細められる彼の瞳は、今は獲物を狙う獣のような鋭さと、得体の知れない熱を帯びていた。
先ほど、聞き慣れない商人から「滋養強壮に効く」と渡された怪しげな薬を、杉元は毒見のつもりで口にしていたのだ。それが、理性を焼き切るほどの**「媚薬」**だとは知らずに。
「でも、そんなに苦しそうなのに放っておけないよ!」
「……っ、言うこと聞けってんだ……!」
杉元の指が楓の手首に食い込む。
彼は必死に耐えていた。楓を傷つけたくない、大切にしたいという理性が、脳内を暴れ回る衝動と激しくぶつかり合っている。
「俺は……不死身の杉元なんだ。こんな、安っぽい薬なんかに……」
そう言いながらも、杉元は楓の首筋に顔を埋めた。
熱い吐息が肌をかすめ、楓は小さく肩を震わせる。杉元の身体は、まるで焚き火のように熱い。
「……楓、お前、いい匂いがしすぎる……。ダメだ、もう……制御が、効かねえ……」
「杉元、さん……」
名前を呼ばれた瞬間、杉元の何かがプツリと切れた。
彼は楓を床に押し倒すと、覆いかぶさるようにしてその視線を支配する。軍帽が落ち、乱れた髪の間から覗く瞳は、もう「兵士」ではなく「一人の男」のものだった。
「……逃げろって言ったよな? 楓」
低い、鼓膜を震わせるような声。
杉元の大きな手が楓の頬を包み込み、親指で唇をなぞる。
「……もう、止めてやんねえからな」
理性の堤防が決壊し、杉元は飢えた獣のように楓の唇を塞いだ。
外の寒気とは対照的に、チセの中の温度は、二人の熱によってどこまでも上がっていくのだった。