公開中
かぞくごっこ
グラムの001の夢小説です。
※Not看守です。
ミルグラムに来て良かったと、彼は笑う。
「えへへ……僕、ここに来れて良かったです!」
その笑顔は優しく歪んでいて、青緑色の目は不気味に輝いていた。
この目が段々と黒く濁っていったのは、一体いつからだったか。思えば、原因は私のせいだっただろうか。私が彼を、愛しすぎたから。
「私も、遥君に会えて良かった」
でも、そんな事もうどうでもいいや、そう感じて、私は自分自身の中にあったはずの、一端の理性を捨て去った。
私達の関係は、まるで終わりの始まりが永遠に続いているようだ。でもそれでいい。それがいい。
「そ、そうですか? 僕も、嬉しいです」
「うん、お互い様だね」
心地悪いはずの関係に、私達はずっと、ずっと身を委ね続けてしまっている。
---
私は、自分の父親に会った事がない。母親が一人で私を育ててくれた。一言にまとめると、母子家庭というやつだ。
「ねぇママ、パパには会えないの?」
「うん、会えないよ」
幼い頃に、こんな会話をした覚えがある。会えないと言う母の顔は、秋の夕暮れのように寂しそうで、それにつられてこちらも、メランコリックな感情を抱いていた。
そして母はそれ以降の生活において、父に関して何も口にしなかった。こちらが質問をしても、のらくらりと上手い事交わして、何も答えてくれない。そんな母の様子に、私はずっと懐疑的な心を抱いていた。ちょっとぐらい言ってくれてもいいじゃない、そんな事を、母の前で軽く口走った事もある。それでも母は、私のその言葉を無視して、何も言う事はなかった。
だけど、今となっては母の気持ちも分かる。なぜ母は父の事を隠していたのか、父は何をしたのか。
父は犯罪者だ。重罪を犯して、無期懲役の刑に処されている。これは祖母から内緒と言われて聞いた事だ。
初めて聞いた時は、ショックを感じた。私の血縁、しかも父親という存在が、犯罪者だという事実を、ただただ悲観した。今となっては、悲観できる立場に私は居ないのだが。あの頃の私は、まだ殺人というものを詳しく知らない一般人だったのだ。
「私のお父さん……お父さんは……」
その時に受けたマイナスの感情は、決して軽いものでは無かった。すごく苦しくて、胸が内側から弾けてしまいそうになった。何度もだ。悲しくて、大好きなはずのお菓子すら喉を通らない日さえあった。とても、苦しかった。
---
両親という存在は、子供の成長にとって非常に大事である。私は自分の人生を通して、つくづくそう感じる。
だからかもしれない。母親から愛情を貰えていないという、彼に肩入れしてしまったのは。そしてそんな彼を、受け入れて愛してしまったのは。
「あ、あの、#名前#さん」
「どうしたの? 遥君」
櫻井遥。ミルグラムという異様な監獄の中でも、彼は私の世界の中で一際目立つ存在だった。
「あ、えっとですね。実は#名前#さんに、つ……伝えたい事があって……」
整った顔立ち、おどおどとした言動、従順な犬のような性格。そんな遥を見ていると、私の中で母性本能がくすぐられる。私が何かしてあげれば、花火のようにニコッと明るく笑う遥。彼に惹かれて恋に落ちるのは、もはや運命だったのかもしれない。やっと巡り合った二人なのかもしれなかった。
「伝えたい事? なぁに?」
遥をゆっくりと見つめる。彼は少し周りを見た後に、重たいであろう口を開いてこう言った。
「その……#名前#さんは僕の事、好きですか?」
突然の言葉だった。内申ではその言葉にドキドキと鼓動を高鳴らせつつ、なんとか遥の前では、余裕の表情を取り繕ってみる。
「ん?」
どういう事かな、というニュアンスで遥を見つめると、遥は分かりやすく戸惑い始めた。
「あ、あのえっと……変な質問、でしたよね! ごめんなさい、困らせちゃって……その……」
次の言葉に彼は迷う。その隙に、と私は彼を落ち着かせる修正を入れる。
「あ、違うの。困ってるわけじゃなくてね、好きってなんだろうーって、自分で考えてたの。ほら、好きの中にも色々あって……」
そこまで説明すると、遥はさっきとは違う、まるでとぼけたような表情をした。
「え? 好きって、自分に優しいから好き、だけじゃないんですか?」
そう言いながら、彼はきょとんとしている。私はそれを見て、なんだか妙に納得するような、そんな心地を覚えた。
複雑な事を理解できない遥。そうか、彼はそういう思考回路なのか。彼にとって好きとは、そういう意味なのか。思わずうんうん、と頷く。
「そっか、遥君が答えてほしい好きは、その好きなんだね」
「は、はい……?」
それなら、から始めて、私は言葉を紡ぐ。
「それなら、私は遥君の事大好きだよ。優しいし、私の優しいも、受け取ってくれるし」
にこやかな笑顔を作りながら、私は遥にこう告げた。言葉はほぼ事実だ。実際、私は遥が好きだ。もっとも、遥が求めている好きなのかは、自分でも分からないのだが。
まぁしかし、本人は嬉しそうだ。
「ほ、本当ですか……!」
遥は私の言葉を聞いて、明るく笑みを浮かべていた。その顔は世界一かもと思うくらいに可愛くて、やっぱり遥は顔立ちは悪くないなと感じる。性格のオーラに引っ張られているだけで、元は良いのかもしれない。そう思うくらい、私の目には櫻井遥という男が、とても素敵に映った。
「本当だよ」
「…………あ、それじゃあ」
一旦落ち着いた笑顔で、遥ははにかむ素振りを始める。どうしたの、と私ができる限り優しく投げかけると、遥はこちらを真っ直ぐ見つめた後、その口を開いた。
「#名前#さんは、僕の事好きなら……。#名前#さんは、僕のお母さんになってくれますか?」
---
異性の親から、愛情を貰えなかった私達。私達はいつの間にか、自分を愛してくれる異性である、互いを求めていたのかもしれない。
「お母さん? 遥君のお母さん。……うん、いいよ!」
求めて、求めて、求めて。愛をくださいと、互いに真正面からぶつけあって。
「でもその代わりに、私からもお願い」
もしここがミルグラムじゃなかったのなら。私達がミルグラムの外で出会っていたら、私達は一体、どんな関係になっていただろう。
「私がお母さんする代わりに……遥君は、私のお父さんになってくれる?」
きっと、狂った共犯者だ。
「お父さん……。ぼ、僕にできるか分からないけど、#名前#さんのためなら……!」
「なってくれるの?」
「う、うん!」
父と母、息子と娘。私達は代わりばんこで、一生この家族ごっこを続けていれば良いのだ――。
「えへへ……僕、ここに来れて良かったです!」
ハルカ君の夢小説ばっかり書いてる私。次は男性陣ならフータ君かミコトさん、女性陣ならユノちゃん、ムウちゃん、コトコさん、あと特別枠でエスくんちゃんあたりを書きたい所存でございます。
あと、ミルグラム夢のシリーズ作りました。これからはミルグラムの夢書いたらここに投げます。勝手にやる感じですが、よろしくお願いします。