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【小説コンテスト】アイドル
約四千文字
作品名・ユーザー名それぞれの記載OKです。
お久しぶりです。
※GL(ガールズラブ)です
※苦手な人は気をつけてくれ
※アイドルの生態が非現実的すぎる
※リハビリもかねての作品
※あと書きはネタバレかもしれない
『みんな、愛してるよー!』
ななかちゃんの言葉で、ファンは、世間は、熱狂した。あの、『愛してる』を未だに言ったことのない『|seasonal《シーズナル》』が、初のドームツアーの最後の最後に、遂に言ったのだ。私は恋に落ちた。いや、昔かけられた魔法が今になって発動して落とされたのかもしれない。嘘かまことか、ななかちゃんの、名前の通り菜の花色をしている瞳は、私の方を見ていた気がした。
--- * ---
ななかちゃんは国民的アイドル。
私はそのファンでしかない。
初めて会ったのは二年前。ななかちゃんの地下アイドル時代。人間社会に出て、昔教えてもらったことを何も活かせなくて、怒られまくってショックを受けていた時、近くにあったライブハウスの可愛くて、煌びやかで、自分とは正反対のライト、装飾、アイドルの子たちがただただ羨ましくて、衝動で駆け込んだ。
前髪が長くて、せっかくの目をわざわざ隠しているスタッフがペンライトと終了後に三十秒間お話ができるチケットを三枚受け取った後は、意外にもすんなりと入ることができた。
入った時にはもうすでにライブが始まっていた。そして、最初に耳に入ったのはこの一言。
「桜と菜の花で貴方の春を独り占め♡ リーダーのなーちゃんこと『|桜瀬菜々花《おうせ ななか》』です!」
綺麗だ。此処にいる人達は輝いている。
周りを見ると、世間一般には『おじさん』と呼ばれる人達がペンライトを振っている。人が多い中、私と同じような女の子はアイドル達しかいない。
「『seasonal』です! 改めてよろしくお願いします!」
四人で春、夏、秋、冬と言ったところか。可愛い。
ポップな音楽が流れてくる。見よう見まねでペンライトを振る。たまたま、ピンク色だった。
時間はあっという間だった。ざっと二時間くらいだったから、いつも『残業』と言いつつ雑用ばかり押し付けられて、それをこなすくらいの時間か。その時よりも遥かに短く、魅力的に感じた。
ライブが終わった後、いわゆる『推し』と話す為に案内場所に行く人が殆どだった。なんとなく、ななかちゃんのところに行った。自己紹介、その子しか聞いてないし。三枚全部、使った。リーダーとあってか、一番人気。
ななかちゃんと話すとき、最初に言われたのは「三枚もありがと! 女の子って珍しいね! めっちゃ嬉しい!」ということ。
遠目で見るのですら可愛いのに、もう次元が違いすぎる。
「あ......。可愛いなって思って、あの、その、気分上げたいなって」
緊張したせいで声が上手く出せない。
それを感じ取ったのか、ななかちゃんは質問してくれた。「ライブ楽しかった?」とか「初めて?」とか。頷くことしか出来なかった。
そんなことをしていると、ななかちゃんは小指を突き出してきた。『ゆびきりげんまん』のスタンバイか。
どうせ『次のライブも来てね』とかいう類の約束だろう。曲の中毒性も高かったし、どうせ暇なので行くつもりだ。指を絡める。白くて、ほっそりした指。
「ねえ、私のこと好き?」
告られた。へっ?
「......かっ、可愛いし、すごく、良いなーって......」
うわー、自分の言ったことが全く答えになっていない。というか、この流れはおかしいって。
「一目惚れしちゃったみたい。好きになってくれる?」
『No』と言うことも『Yes』と言うことも指を振り解くこともできないまま、フリーズしてしまう。ななかちゃんはそんな私をスルーした。
「ゆびきーりげーんまん、嘘ついたらはーりせんぼんのーますっ! ゆーびきったっ!」
嗚呼、魔法が掛かってしまう。昔から『ゆびきりげんまん』されるとそのことが現実になってしまうのだ。
「お名前、なんていうの?」
すーっ、と無意識に息を吸った後、言った。
「ののか、です」
「ののかちゃんかー! 名前似てるね! よろしくっ!」
一分半は、本当に一瞬だった。
--- * ---
あのライブの少し後、『seasonal』はアイドルグループとして正式にデビューした。元々の才能もあいまって、地下アイドルよりも仕事量が爆発的に増え、二年後には五大ドームツアーを果たした。同期のアイドルグループと比べても破竹の勢いで進んでいる。
ななかちゃんと私の関係も大きく変化して、今は半同棲状態になっている。私に『持病があり一人暮らしができないが、頼れる知り合いがななかちゃんしかいない』という設定をつけ、ななかちゃんが強引に決めたものだが(マネージャーも大反対していたが、ななかちゃんは図太いのだ)、意外とこの生活に満足していたり、していなかったり。競争率が高すぎるライブのSS席のチケットはとってくれる(お金は払うが)ため、そこは凄く感謝している。
そして例のライブ最終日、伝説級の『愛してる』が飛び出して、ようやく恋の魔法がかかったわけだ。
『......ん、よし。繋がったかな』
物思いに耽っている間に、ななかちゃんのライブ配信が始まった。
『やっほー。ななかでーす』
コメントが加速する。『やっほー』『ななか様今日もかわいい』みたいな趣旨のコメントが流れていく。
『見てくれてありがとー。あ、『@ななちゃん』さん、『目の絆創膏大丈夫ー? まさか怪我した?』へへ、気づいちゃったかー』
目潰し魔、とぽつり呟く。
『目潰し魔』というのは、眼球を『盗る』猟奇的連続殺傷事件の犯人と思われる奴の異名。凶器、素性は全くの不明。おまけに、被害者の襲われた前後一時間の記憶が抜け落ちているときた。二年とすこし前から始まって、二十人ほどの被害者がいる。世間の恐怖の対象だ。
まさか__ね。
『この傷ね、さっきこっちのスタジオき移動する時に、轢かれそうだった猫を助けたついでに戯れていたら引っ掻かれたんだよねー。挙句の果てに逃げられた!』
ほら、やっぱり違かった。『ええっ!? 大丈夫?』『目が傷つかなくてほんと良かった』
とコメントが流れる。ななかちゃんの動揺を誘わない限りこんなことは起きないから。
話は移ろっていく。ななかちゃんが最近行った猫カフェの話(ななかちゃんは猫が好きなのだ)、メンバーの話(推せるポイントをひたすら語っていた)、コメントからお悩み相談を依頼され、それを解決するなどなど。
そして、必然のように、ななかちゃんが今度主演を務める映画の話になった。
『それで! 勇者の少女役をすることになったんだけど、この子はもちろん他のキャラクターも魅力的すぎて本当に現場行くのが楽しみなんだよ! 本読むのも好きだから小説感覚でも楽しめるの! 俳優業も始めて良かったー』
ななかちゃんが主演を務める映画は人気のライトノベルが原作の物語だ。勇者を志す少女の、苦悩しながらも自分を貫く姿に、多くの人が励まされ、救われた。
もちろんアイドルでいるのも大好きだよー、と付け足すななかちゃん。待って、その表情可愛い。
『あっ、『@ぴすたちお』さん『主人公以外にやりたい役とかあるー?』えー、めっちゃ迷うんだけどー』
『アズ役とかやってみたいなー。悪魔の』
ななかちゃんは何やっても可愛いから、きっと悪魔役をやったらそのうちガチで契約しそうな人も現れるな、と思う。コメント欄に目をやる。『味方キャラ選びそうと思ってた』『ななか悪魔様ー!』『まさかの闇属性』『なーちゃんに『寿命を捧げよ』って言われたら多分十年くらい差し出すな』とコメント。
『えー、闇属性とか言われてる! ま、あながち間違ってないけどね。ほら、あんぱんのヒーローアニメあるじゃん? そのあんぱんより敵のばい菌の方が好きだもん! やっていることは非人道的だけどそっちの正義にも共感しちゃうんだわ。あと憧れてる』
知らなかった。ばい菌とかあんぱんのくだりはよく分からないけれど、わかるなあその気持ち。いや、自分の思想が影響したかもしれない。コメントにも『わかる』『同志発見!』『アズもばい菌も、というか主人公が良いやつの敵役って正義さえ持っていたら可愛いんだよなわかる』と。思ったより同志いるな......。
この流れで『敵役が意外といい奴なアニメとか』の話になり、おすすめアニメとかラノベとな漫画とかを紹介し合う、祭りっぽい何かになった。ななかちゃんもファンの皆さんも詳し過ぎるよ。何も分からないわ。『seasonal』くらいしか分からない。
わーわー話しているうちに、ライブがはじまってから二時間経っていた。じゃあ、みんなも遅いからじゃーねー、とななかちゃんは告ぐ。ちなみに、今は午後十時。珍しく仕事が早く終わったみたいだから、ななかちゃんもゆっくりやすみたいよね、うん。
すぐ近くににあるソファーに体を投げ出す。天井を仰ぐ。スマホの画面を近距離で見すぎたか、目が疲れた。視界の端で、コレクションしている漆黒、|緋《アカ》、|紺碧《コンペキ》が煌めく。瞼が重い。ななかちゃんを出迎えたかったけどな__
--- * ---
眼前に菜の花__いや、菜の花色の瞳。
「ひぁえっ!?」
「おはよ。少しおでこつついただけなのに起きちゃったか。眠り浅い方?」
何事も無かったかのように尋ねるななかちゃん。私は間髪入れずに言う。
「今のは忘れてっ! 今は何も起きてないから!」
はいはい、と軽そうな声が聞こえる。恥ずかしい。
「ところで、今日は《《コレクション取れた?》》」
「ま、一応。ストーキングしようとしてたファンのやつ」
「ありがと。__いや、《《この人の目めっちゃ綺麗じゃない?》》」
「推し活してると生きがいを見つけて美しくなるのかな。知らんけど」
そう言って私達が見ているのは《《眼球》》。
「いや、三年前に告ったのがまさかこんなことになるとはねぇ。ファンが、ののかが《《目を捧げる代わりに願いを叶える悪魔だったとは》》」
あの告白は、『ゆびきりげんまん』は、願いを叶える魔法であり、呪い。引き換えに『使い捨て』の主従関係を結ぶ、呪縛。ななかちゃんと三年くらい関係が続いているのは奇跡以外何物でもない。
「ねえ、ののか」
「何?」
「貴女はさ、自分で目を奪わないの?」
「まあ、奪うけどね。ななかちゃんがいる限りは積極的にしないつもり」
嘘だ。まだ、時が来ていないだけで、貴女の目が一番輝く時、綺麗な時に奪う。
悪魔は常に残忍でいなくてはならない。これは恋の魔法にも勝る、宿命。
「ななかちゃん、大好き」
嗚呼、私の。
私の、最高で最強の、|eye盗る《アイドル》様。
筆者はアイドルのライブとライブ配信というものを見たことがないのでよく分かっていません。
ようやく浮上しました、風見鳥です。久しぶり。YOASOBIの『アイドル』を久しぶりに聞いてみたら、『誰もが目を奪われていく 君は完璧で究極のアイドル』にインスピレーションを感じ、ネタができたので小説書きました。歌詞を物理に変換したら面白いことになることが分かりました。二次創作ではない。多分。
これからもこーんなかんじで超低浮上なのですがよろしくお願いします。
(蛇足かもしれませんが、私も某あんぱんより某ばい菌の方が好きです。同志いる?)